心を凍てつかせて
「もうっ本当に心配したんだからねっ!!」
「いや殴ったのお前……や、なんでもない。心配かけて悪かったよ……」
泣く子は強いよね。分かるわー、私もよくそれで窮地を脱したもん。
そのせいで今はもう嘘泣きなんてお父様くらいにしか通用しなくなっちゃったんだけどね。
と、そんなことはともかく。
ギャン泣きしていたミュラーが我を取り戻すと、恥ずかしさからかカイルがめっちゃ叱られるターンに入りました。
で、その間にカレンちゃんに、ミュラーの方がどうなったのかを聞いたんだけど……。
なんとミュラーさん。
今回の失敗により、バルお爺ちゃんから対人試合の禁止を言い渡されたらしい。
お爺ちゃんグッジョブ!! と飛び上がって喜びたいのをなんとか我慢したよね。
でも正直、ミュラーは持ってる力の大きさに対して責任感とか緊張感とかが足りてない感じが前々からしていたので、この際バルお爺ちゃんにはきっちりとした躾をお願いしたい所存である。
うっかりで友達殺っちゃうのはナシだろ。
「……エッテ」
「キュイ」
……ふう。落ち着く。
エッテの精神安定って癖になるよねー。
まぁね、ミュラーもわざとではないしね。
むしろ自分の手で、って方が精神的にキツそうではあるし、本人も反省して罰も受けるんだから私まで責めるのはどう考えてもやりすぎだよね。
そう、心では分かってるんだけど……。
「キューイ」
……ん、ありがと。いいこだね。
エッテの頭をひとなでして、耳から入る声をシャットアウトした。
こーゆー時はあれだ、別のことを考えよう。
例えばほら、カイルがなんでミュラーに殴られた時のこと覚えてるのかー、とか。
記憶って脳の役割でしょ?
肉体は魔法で殴られる前の状態に戻したハズなのに、その後の出来事を覚えてるってのはどーゆーこと? ってちょっと疑問を覚えるよね。
やっぱり記憶って肉体じゃなくて魂が保持してるものなのかな。それならなんとなく納得できる気はするけど。
そういえばアネットさんの身体に同居してる魂の人も、私の中にいた時の記憶があるって言ってたなぁ。商家の娘になって役立つ知識が沢山で助かるとかなんとか。
記憶や意識が魂に付随するものなのだとしたら、人体蘇生の鍵は魂にあるのかもしれないね。
……ところで魂って非実体だから二つに分けたりとかできると思うんだけど、その場合記憶なんかはどうなるんだろうか。
記憶の魂と意識の魂に分かれる? それとも、全部半分ずつに分かれる?
女神とリンゼちゃんの例だと魔力の量以外には劣化が無い優秀なコピーができたようだけど……女神を基準にしちゃいけないよねぇ。
その辺どーなのか後でヨルにでも聞いておこうかな。
どうせ今日もまた、部屋に不法侵入してるだろうし……。
「――泣いてるの?」
不意に耳に飛び込んできた声に、思わず顔を上げてしまった。
目の前には、心配そうに覗き込むカレンちゃんがいて。
「泣いてないよ?」
なんでそんな風に思ったの? ときょとんとして見せれば、カレンちゃんは「あれ?」と不思議そうな顔をしていた。
「……泣いてない、ね?」
「泣いてないねぇ」
ああ、どうしよう。
あれー? ってするカレンちゃんがかわいい。抱きしめたい。
「なんでキミはそんなにかわゆいんだー!!」ってかいぐりかいぐりしたい。
でもここは一応カイルの病室ってことになってるので、突発性撫でたがり症候群は、エッテの首のところをもももももっとモサモサすることでやり過ごした。
手が至福の感触に支配されました。
きもちいい〜。
……あ、いいこと思いついた。
「ねぇ、カレン。この後の勉強会の事なんだけど……」
カレンちゃんに少しの間話し相手になってもらおう。
話はそらせるし、私は癒されるし、良い事尽くしだね!
――その後、カイルが抜ける影響やミュラーの精神的なフォローなど、カレンちゃんと二人で話し合いながら。
私はゆっくりと、いつもの調子を取り戻していった。
エッテの治療に中毒性はありません!
エッテの愛らしさに被術者が勝手に幸福感を感じてしまうだけなのです!




