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剣姫vs聖女+α


「勝て!!!!」


 バルお爺ちゃんの掛け声で始まった試合。


 先手を取ったのは、試合前の宣言通りにカイル……ではなかった。


「いっ!?」


 ミュラーさん、相変わらずの神速にて試合開始と同時に飛び出していたカイルの眼前に出現。

 慌てて持ち上げられた木剣にカカカンッ! と軽快な音を響かせると、私が追いつく前に余裕を持った退却を完了させ、格の違いをまざまざと見せ付けてきた。


 カイルが突進した事実など初めからなかったかのように、それはもう見事としかいいようのない初動で、勢いを完全に殺されたカイルは驚きのあまりか完全に固まっている。


 もうね、ヤバすぎ。

 傍から見てるとその速さの異常性がよく分かる。


 私の限界まで強化した動体視力でもカイルの剣とミュラーの剣が交わる瞬間が見えないということは、その速度はもう肉眼で観測するのは不可能な領域に入っていることを意味している。


 距離が開いた状態ですら見逃すような速度で動くんだもん。相対してたら見失うのも納得だわ。


「カイル、もう一回」


「お……おう」


 追い抜きざまに声をかけ、私はミュラーの注意を引きつつ半円を描くように移動。数の利を生かした挟み撃ちの状況が作られていく。


 ……と、そう思ったでしょう?


「うわっ!?」


 私と突撃のタイミングを合わせる為に減速したかに見えたカイルの、前触れの無い急加速。


 私を気にしつつカイルを降すタイミングを冷静に測っていたミュラーは機を乱され、僅かに次の行動を迷った。


 その、意識の間隙に。


「やあっ!」


 私は魔力を込めた木剣を振り上げ気勢をあげた。


 距離はまだある。この木剣が振り下ろされたところでミュラーに届くはずもない。しかし。


 ――果たしてミュラーの警戒するこの私が、そんな無意味なことをするかな?


 二対一なんてハンデにもならない。


 ミュラー程の速度があれば、対複数なんて対単体を数回繰り返すのと何も変わりはしないだろう。

 練度が足りなければ何人いようと脅威足りえない。そんなことは百も承知だ。だから。


 まずはその足を止めさせてもらう。


「いっけぇー!」


 えーいっ! と明らかにわざとらしく木剣を振り下ろす。


 魔力が木剣から迸るのを見たミュラーは――。


 間近に迫ったカイルより、私への対処を優先した。


 カイルってばマジで戦力として見られてないのね。他人事だけど、なんだか憐れに思えてきたよ……。


 と、それはともかく。


 木剣から溢れ出した魔力はダミーだ。衝撃波にはならない。

 空気中に意味ありげに拡散はするが何の効果も及ぼさないし、当然、不測の事態に対処しようと構えるミュラーにも何の影響も与えないことはない。


 その真の効果を受けたのは、カイルだ。


「おぉわっ!?」


 足をもつれさせながらも懸命にミュラーに突撃していたカイルの、二度目の意に沿わぬ急加速。


 変な体勢になりながらもミュラー目指して猛烈な勢いで突っ込む姿はまるで、女の子のお尻を執拗に狙う変態のよう!!


 さあ、カイルよ!! ミュラーのおしりにかぶりつくのだ!!!


「カイル! 抱きつけ!!」


 二人が衝突する間際、走りながらに指示を出す。


 いくら魔力で身体機能を強化しているとはいえ、男と女では体格が違う。


 カイルが本気で抱きつきさえすれば、ミュラーとて逃れるのには時間を要するハズ!


 これでミュラーを拘束さえできれば――


「あ」


 あ? と思った瞬間には、既にもう。


 カイルは壁際に並んで観戦していた人達の中に吹き飛ばされた後だった。


 ……今、カイルが水平に飛んでいったよ? 人ってあんな風に空飛べるの?


 音。喧騒。ざわめき。怒号。


 集中していた意識が拡散して視野が広がると、カイルの突っ込んだ辺りが騒然となっているのに気が付いた。


「あああ……」


 そして私の隣りには「やっちゃったぁ……」と言わんばかりに頭を抱えて座り込むミュラーが。


 今ならその無防備な頭に一撃入れられそうだけど……恨まれても怖いからやめておこう。


「やっちゃったねぇ」


 気楽に声をかけるも、ミュラーは落ち込んだまま反応がない。というか、顔が若干、青ざめている様な……?


 不思議に思っている間にも、耳に入ってくる声は次第に声量を増していく。今も大の男たちによる「早く運べ!」「下手に動かすなよ!」「意識無いぞ、医者呼んで来い!」などなど、不穏な言葉が続々と……。


 改めてミュラーを見る。


 聞こえているだろうカイルの容態を示す言葉にも反応はなく。

 未だ木剣を握ったままの右手同様、頭を抱えているように見えていた左手は、実は薄く開かれていて、ミュラーがその手をじっと見つめていたことに気がついた。


 それはまるで、手に残った感触を信じたくないと言っているかのような光景で……。


 ……え? 嘘でしょ?


 カイル死んだか?


生きろカイル。いや、死んでても生き返れカイル。

このまま死んだら君は「死因・女の子のお尻に飛びつこうとした為」という汚名を被る事になってしまうぞ!?

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