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殺意無き必殺の言の刃


「ソフィアって焦らすのが上手よね。クラスの男子たちもそうやって誘惑してるの?」


 ヘレナさんに、試験が終わるまではあまり寄れなくなることを伝えた後。


 今日も今日とてやってきたミュラーの家で、開口一番。あらぬ嫌疑をかけられていた。


 ……誘惑て。


「何の話?」


 この子は早くも勉強のしすぎで頭がおかしくなったのかしらん? と失礼なことを考えつつ、アホな事を言い出したミュラーを放置してカレンちゃんに事の次第を尋ねる。


 どーせまたカイルが……と決めつけたりはしない。私は学習するので。


 カレンちゃんは、私にスルーされてむぅと口を尖らせたミュラーを気にしながらも、説明を始めてくれた。


「えっと……初めはみんなで、ソフィアって意外と忙しそうだよねって話してたんだけど」


 意外とって余計じゃない?


 浮かんだ不満をぐっと堪え、余計な口は挟まないで今は聞き役に徹することに集中する。


「そんな話をしてるうちに、ミュラーが『待ち切れない、ソフィアは何をしてるの』って言い出して……」


「それにカイルが『これもあいつの作戦かもしれないぞ』って言い出してな。なあ?」


「……ああ、まあ」


 ウォルフの小突かれたカイルは、若干バツが悪そうにして、私から目を逸らした。


 なんだ、結局カイルが犯人なんじゃないか。慎重になって損した。


「つまりカイルがまた、私の悪評を言い触らしていたと」


 ふぅーん。へぇーえ。ほぉーう。


 カイルってば定期的に私にストレス発散する機会をくれるなんて、本当に優しいよねー。幼馴染み冥利に尽きるよねー。その優しさを私は無駄にしたりなんかしないよー?


 その過度な被虐性癖を満たす為に、ミュラーとの試合に無理やり巻き込んで肉盾にでもしてやろうかと画策していると、慌てたカレンちゃんがカイルを守るように立ちはだかった。


「ち、違うのっ! カイルくんは確かにソフィアの悪口は言ってたけど、違うのっ!」


 必死に弁明……弁明? するカレンちゃんの後ろで、カイルの顔がひくつくのが見えた。


 カイルへのお仕置き、一回追加と心のメモに書き記しておこう。


「あのね、カイルくんは『ソフィアって焦らしたり待たせたりして、相手の心に隙を作るような、姑息な手段をよく使う』って言ってたの。それを聞いたミュラーが『確かにソフィアは姑息な手段を好むわよね』って言うから、私が『ならクラスの男の子たちから人気があるのも、狙ってやってるのかなぁ』って……だから、私が悪いの! ソフィアが本当にやってるかもわからないのに、勝手に変な想像しちゃった、私が悪いの! だから、ごめんなさい!」


 がばっと頭を下げるカレンちゃんを前にして、私は完全に固まってしまっていた。


 ……私、みんなの友達でいいんだよね?

 性格最悪の猫っ被りで本当は顔を合わせるのも嫌だけど、仲良くしてると色々と使える奴だから、嫌々付き合ってやってるとかじゃ、ないん、だよ、ね……?


 あ、なんか涙出てきた。


「あっ、ソフィア、っ、あう……」


 慌てるカレンちゃんの姿は、いつもなら「なんてかわいらしい!」とかなる場面なんだろうけど。


 そのお可愛い口から次はどんな言葉が飛び出して心を折ってくるのかと思うと、とてもお気楽に構えていることなんてできなかった。


 不意打ちすぎてダメージやばいです。


「……ソフィア」


 ビクゥッ! と横合いから掛けられた声に過剰に反応してしまう。


 か、カイルも私に酷いこと言うの? 酷いことを言うつもりなの? そうなんでしょう!? いつもの腹いせをするチャンスだもんね!!

 と心の中では虚勢を張るも、実際には「なに?」の一言すら出てこない。


 思わず後ずさり、身体を縮こまらせながら肩を震わせ怯える姿は、どこからどう見ても格好の餌食にしか映らないだろう。


 ……い、いじめたら、後でひどいよっ! なんか、こう……ぜ、絶対仕返しするから!


 と不屈を訴えたつもりの瞳は、なんだかもう涙で視界が歪んできていた。


 う、うぅぅ……カイルのくせに怖いなんて、生意気だ!


「お前さあ」


 顔面を掴むように伸びてくる手を見て、思わずギュッと目を閉じた。


 ららら乱暴とか良くないと思います! そそそそーゆーの、良くないと思いまぁす! と心の中で唱えながら、(きた)る衝撃に備える。


 い、痛いのはやだな……私、痛みは……あ、でも魔法で痛みは来ないんだっけ……なら痛がるフリしなくちゃ……。


 そう思ってチラリと瞼を上げた瞬間、


 ――パチンッ!!


「うひゃう!!?」


 突然耳元で大きな音が鳴り響いた!!!


 ナニ、なんなの、何が起きたの!? と混乱する私のおでこに、次なる衝撃。


 思わず見開いた眼前には、カイルの顔面が超至近距離にドアップであって、


「なんでこんなことくらいで動揺してんのかは知らねーけどっ!」


 後頭部が、意外と大きな手でがっちりと押さえ込まれ、



 ――強い瞳が、私を真っ直ぐに射抜く。



「お前が姑息な奴だって事くらい、みんなとっくに知ってるっての!」


 そう言って、カイルは。


 とても愉快そうに笑ったのだった。


(ソフィアのデコはホントにかってぇなぁ!!)

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