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記憶とは異なる手


 賢者アドラスの奇行。


 その理由は、意外な人か知っていた。


「ああ、ソフィアちゃんも会ったの? アドラス様のあの剣幕には驚いたわよね」


 そう語りながらヘレナさんは、シャルマさんの淹れた紅茶を飲んで、満足気に頷いていた。

 もう体調は完璧に復調したようだ。何よりだね。


 それにしても、アドラス様って……。


 いや、いいんだよ? 身内に賢者がいると感覚が麻痺しがちだけど、賢者ってとっても偉いらしいし。偉い人が様付けで呼ばれるのは至って普通の事だ。何も問題は無い。


 無いのだけど、何故だろう。

 聞き馴染み無さすぎて違和感がすごい。


 あの人ってネムちゃんに翻弄されてる常識のない人、みたいな印象なんだよね。だから偉い人って印象はあんまり……まあ魔法は、そこそこ、凄いかもだけど。


 ヘレナさんの話によれば、アドラスさんは例の超巨大魔物たる災厄の魔物が倒された事を知らず、王都がもう滅んでいるものと思いつつ田舎から帰ってきたら、あまりにも何も変わりがなくてビックリしてた、ということらしい。


 王都のピンチに田舎にいる賢者……。


 それってお偉い賢者様としてどーなのよ、とは思ったものの、実際ネムちゃんより優秀程度のレベルの魔法使いが単独でアレに挑んだところで敵わないのは目に見えてるから、しっぽ巻いて逃げるのは間違った行動ではない気もする。


 というか……あれ?


 よくよく考えたら、あの魔物の驚異を正しく認識してるのって、やっぱり優秀なよーな……? 王様だって危険視はしてたけど、王都が滅ぶまでの意識はなさそうだったし。


 ん、となるとネムちゃんが学院に来てないのって、もしかしてそれ関連? 魔族専用避難警報が発令されてた的な? ほうほうほう、となるとネムちゃんにまた会える日も近そう?


 ネムちゃんを逃がす為ならば、うむ。かわいい子を危険から遠ざけたくなるのは自然な行動だよね、うむうむ。


 私の中でのアドラスさんの評価がちょっぴり上がった。


 ……でもあの人、ネムちゃんに首輪付けたりしてたんだよなぁ……。


 気を抜くと、私も……? と想像したところで、私の首に()められた首輪から伸びる鎖の先を、何故かお兄様がにっこり笑顔で握っているところまでを一瞬のうちに妄想した。


 …………正直アリだと思いますッ!!!


「……ソフィアちゃん。私を助けてくれたってシャルマから聞いたわ。ありがとね」


 おっと、ヘレナさんから真面目なお話ムードを検知したぞう。


 この素敵な……げふん!

 ちょっぴり危険なお兄様妄想は今は横に置いておこう。今は、ね。


 ……今晩のネタにしよ。


「ソフィア様。私からも、改めて感謝を。ヘレナ様を救って頂いたこと、深く感謝しております」


 シャルマさんからも再三の感謝が送られる。


 私こーゆー空気、苦手!


「はい、どういたしまして。元気になって良かったですね!」


 知り合いが困っていたら、助ける。

 それは当然のことで、そんな当たり前の事でこうして何度も感謝されると、気恥しさで、うわーっ! ってなってしまうのだけど。


 胸に灯る暖かな気持ちは、決して心地の悪いものではなかった。


「つきましては、私に出来るささやかな御礼と致しまして、本日は趣向を凝らしたお菓子の用意を――」


「っ!!!」


 なっ、ななな、なんだってー!?!


 今日はヘレナさんの経過の様子見のみで、試験が終わるまでは顔を出す頻度も減らす。

 その報告の為だけに立ち寄ったつもりだったのだけど事情が変わった。


 お礼はきちんと受け取らないと失礼だよね!!


「嬉しそうな顔するわねぇ……」


 二人の声すら意識の隅に追いやられて、今の私はお菓子の在り処を探る事に必死に……そこだぁー!! この微かに香る芳ばしい香り……焼き菓子系だね!?


 おっかし♪ おっかし♪ とうきうきしながら配膳の用意をするシャルマさんの一挙手一投足を見守っていれば、いつもは一人、自分の机でお菓子を食べてるヘレナさんが、何故だか私の隣に移動して腰を下ろした。おお?


「今日は私もここで食べようかしら。いい? ソフィアちゃん」


「それはもちろん、構いませんけど……」


 ソファは三人で座っても余裕のある造りだ。

 食べづらいということも無いので何も問題は無いけれど、一体どういう風の吹き回しだろうか?


 不思議に思ってヘレナさんの顔を見上げる私の頭に、ぽふんと手が置かれた。


「ソフィアちゃんはかわいいわねぇ」


「ありがとうございます……?」


 え、なんだこれ。本当になんなの?


 困惑しながらもヘレナさんの表情からその思考を読み解く。その心は。


 思慕。感謝。愛玩。その他。


 ……何となく分かった。

 これって、「こんなにかわいい子が私の為に頑張ってくれたなんて本当に嬉しい! あ〜んもうぐりぐり〜!!」みたいなやつだ。


 思う様なでられまくる身体の揺れを感じながら、私は「そういえば最近お母様に撫でられてないな」なんて事を考えていて。



 ――その後三人で食べたシャルマさん特製のアップルパイは、勿論とても美味しかったのだけれど。


 この場にお母様が居ない事を、何故だか少しだけ、寂しく思った。


シャルマ「…………」


ああっ、シャルマが!

ソフィアを撫でたそうに、ウズウズしている!!

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