表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
536/1407

身体防御の穴


 やっぱりお兄様ってすごい。


 私たちが帰ったあと、一人になったミュラーはちゃんと勉強するのだろうかと密かに心配していたところ、なんとお兄様がミュラーのお兄さんを紹介してくれて、ミュラーを見張ってくれることになったのだ!


 奥さんだという女性と二人でニコニコとしていて、とても感じの良い人達だった。


 あの人達に見守られてたらミュラーも頑張れるよね!


「ソフィアの力になれて良かったよ」


 お兄様の素敵スマイルにハートがドッキンコしちゃう。


「お兄様はいつだって私に力を与えてくれてます!」


 お兄様パワーを充填したソフィアちゃんは元気百倍!


 どんな困難にだって打ち勝っちゃうんだからね!!



◇◇◇



 ――そんな風に思っていた事もありました。


「あら、おかえりなさい。今日も遅かったのね?」


「……………………ただいま」


 私の部屋で悠然と佇むヨル(女神様)を見るまでは。


 ……いや、ちがうのよ? お兄様パワーで元気元気、それは本当。


 やる気が(みなぎ)っちゃってあら大変ーな状態なのは紛れもない事実なのだけど、だからってわざわざ本当に困難を用意してくれなくてもいいと思うの。


 元気って使うとなくなっちゃうんだよ?


「……? ソフィア、どこかで沐浴でもしてきたの? それに、その毛先……」


「そう! それ!!」


 ずびしっ! とリンゼちゃんの指摘に花丸をプレゼント。


 そしてそのままヨルの存在を無視して、私が如何にしてミュラーに虐められたのかを存分に語った。



「もーーホントにミュラーってば加減を知らないっていうか本気になりすぎっていうか、もうちょっと相手する私のことも考えてさぁ……」


 愚痴が止まらない止まらない。


 だって、髪だよ? 乙女の髪だよ!? いくらなんでもこれはないよね!!?


 ぷんすかぷんぷん! と怒りをあらかた吐き出し終える頃には、気分はかなり晴れやかになっていた。


 あー、スッキリした!


「ソフィアって面白いわね」


「毎日一緒だと疲れるだけよ」


 ちょっとリンゼちゃん! そーゆーこと言わないの! というか、ヨルも面白いってどういうことよ!


 こっちの女神二人組……実質一人か? ええい、二人にも怒ったぞう!


 ソフィアちゃんのぷんぷんビームをくらえー! ビビビーッ! ……っと馬鹿な事をしようとした思考にセルフツッコミを入れて、我に返った。

 ぷんぷんビームってなんだ。


「まあとにかく、そんなことがあって髪の毛が悲しいことになっちゃったからさ。リンゼちゃん、整えてくれない?」


 そう言って、長さの歪になった髪束をふりふりしながらお願いしてみる。


 ……改めて見ても綺麗な切り口だよねぇ。


 スッパリと断たれた毛先はとても木剣で切ったなんて思えない。


 というか、普通は木剣で髪なんて斬れないですよね。

 魔法でなんでもできちゃうこの世界で、今更普通もあったもんじゃないけど。


「はいはい。用意をしてくるから少し待っていてちょうだい」


「はーい!」


 私の頼みを素直に聞いてくれるリンゼちゃん、好きだよ!


 それに比べて……と、相変わらず、まるで我が家にいるかのように(くつろ)いでいるヨルをジト目で見ながら苦言を呈す。


「ヨルはいつまでいるの?」


「飽きるまでかしらね」


 ダメだ。この女神様は心臓に毛が生えている。皮肉のひとつも通じやしない。


 どうせ何を言ったところで聞かないことは目に見えているので、ヨルが私の部屋の主のように振る舞うのはもう諦めて、大人しく別の事を考えることにした。


 別のとなると、ミュラーのことか。


 明日以降の手合わせも今日くらいの勢いで来られると辛いなぁ……何か上手い回避方法があれば……と、考えたしたところで、ふと気付いた。そういえば、と。


 とても今更だけど、私の髪って切れるんだね。知らなかったよ。


 ほら、私って常時発動の障壁張ってるじゃん? 魔法はかき消して無効化して、物理攻撃も完全にシャットアウトしちゃうような完全防備なやつ。


 魔法が降ろうと槍が降ろうと傷一つ付かない自信があったんだけど、今回髪の毛が傷ついちゃったわけで。


 ある意味では今回、ミュラーに切られて良かったのかもしれない。


 もしも完全に防げると思ったまま火の魔法なんて受けた日には、私は髪の毛だけが被害を受けて、は、ハゲ……ハゲて……っ!


 ……やめよう。


 悲しい未来は回避された。今はそれでいいじゃないか。


 肌に刃が突き立つのを防ぐのと同じ感じで、髪の毛も断ち切られるのを防ぐ想像を強化しておこう。


 ……ん? あれ、これひょっとして、一本一本意識しないとダメなパターン? 髪の毛全部に防刃キューティクル的な?


 お、おおう……めっちゃ大変そう。


「お待たせ。用意してきたわよ」


「ありがとー」


 リンゼちゃんの用意ができたようなので、私も化粧台の前に移動した。


「それじゃあ……っ、? ……、……あの、ソフィア」


「なあに?」


 髪に手を入れたリンゼちゃんから物言いが入る。


「髪の毛が異常に硬いのだけれど、これはなに?」


「失敗かあ」


 試しに髪の毛を防刃にしてみたけど、違和感がすごいっぽい。


 身体防御に髪の毛を含ませるの、苦労しそうだなぁ……。


(女神って暇なのかな……暇なんだろうなあ)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ