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ミュラーの得意技


 ミュラーの手に集まっていた魔力がするっと流れ込み、可視化出来る程の魔力を纏った木剣は、淡い光を帯びて聖なる木剣みたいになっていた。


 あれね、多分岩とかよゆーで壊せる破壊力あるよ。


 ミュラーが見た目にも分かる派手な技を使おうとしているのを見て、場所を借りてる道場の人たちもざわつき始めていた。


「おいおい、お嬢が《加護》なんて使って大丈夫なのか?」


「相手の子、さっき蹴り弾いてたろ。相手も《加護》持ちだ、心配ねぇよ」


「はー、あんなにちっちゃい子がなぁ……」


 つーかあそこの人、さっきからちっちゃいちっちゃいうるさいんだけど。すっごく気が散る。


 はー、とか、ほー、とか。

 感心して溜め息を零す程度なら気にしないから、少し黙ってて欲しい。


「行くわよ!」


 いかん、集中せねば。


 真っ当に剣の鍛錬を積んできたミュラーが本来不慣れなはずの蹴りでさっきの動きだもん。得意だと自称する剣技なんて、気合いを入れないと気づかないまま受けちゃいそうだ。


 できれば来ないで欲しいなあと思いつつ、光る木剣に注意を払う。


 ……あれだけはまともに受けられない。避けるしかないだろうな。


 そう思っていると、ミュラーが剣を引いた。


 顔の横で、真っ直ぐに。剣先で私を狙う点の攻撃。


 ……それはまるで、力を蓄え解き放たれるのを待つ、弓矢の様で。


「――ふっ」


 その予想は正しかった。


 予想外だったのは、その速さだけ。


 油断なく待ち構えていたはずなのに、ミュラーが動いたと認識した次の瞬間には、距離が半分以上詰められていた。


 もう、瞬きする暇もない。


「〜〜〜ッ!?」


 はっや!! めちゃくちゃはっやい!! 今ワープしなかった!!?!?


 今にも眉間に突き立てられそうな剣先に(おのの)きながら必死に回避動作を取る。


 身体を反らし、無様に剣を振り上げ、少しでも脅威から遠ざかろうと抵抗する。


 余裕なんて一瞬で吹き飛んでいた。


「――ふっ」


 僅かな呼気。


 魔力で強化された聴覚が拾ってきた小さな音に次なる危機を感じ、迫る剣先を再度見やる。が、既にそこにあったはずの剣身は消え失せていた。


 ――風を斬る音は、反らした身体の下から聞こえた。


 全身が総毛立つ。


 何が起きた? 何が起きてる?


 そんなのは後だ、今は全力で回避をッッッ!!


 訳も分からぬまま逆手に持ち替えた木剣を床に突き立て、空間ごと固定。

 身体強化で増幅させた腕の力だけでバランスを崩していた身体を無理やりに引き起こしたと同時、ブォン!! と風鳴る音と共に逃げ遅れた私の銀髪が断ち切られ、ぱらりと宙に銀糸を踊らせた。


 あーーーー!! 私の髪斬られた!! しかも結構ザックりいったぁ!! ひどすぎる!!


「――ふぅっ!」


 ――裂帛の気合い。


 ぎょっとして、剣に引き寄せられた勢いのまま回転。

 頭を戦闘モードに戻して身体中を巡る魔力をいつでも扱えるように感じながら、しゃがみ込んで見上げたその先には。


 ――光を増した木剣が、今まさに私の顔面に振り下ろされようとしているところで。


 その不可避の斬撃は、そのまま私の顔に、吸い込まれるように――。


「ソフィア!!」


 ――当たりそうだったので、空間にがっちり固定してあった木剣を思いっきり蹴り飛ばして、私はその場を離脱しましたとさ。


 ゴガアァァン!!!


 ゴロゴロ転がってる最中にすっごい音が聞こえた。

 っていうか、ねえ寸止めは? ミュラーの辞書に寸止めって言葉はないの?


 避けるの相当ギリギリで、私のお股がヒュって風を感じたんだけど? あれを魔法の防御無しで受けたら普通、失禁じゃ済まないよ? 下半身がひぎいって壊れちゃうよ?


 っていうか煙い。降ってくる粉塵がうざい。


 普段から埃なんて魔法でシャットアウトしてるけど、この量を浴びて身綺麗なのは流石に不自然だ。


 わざと埃まみれになるのも嫌なので、ゴロゴロと開脚後転を続けながら大きめに距離をとった。幸いみんなの視線は舞い上がる粉塵で遮られているから大股開いてても恥ずかしくない。


 よし、これだけ離れていれば身綺麗なままでいても違和感は…………転がったら、汚れるべきかな? やっぱり少しくらいは汚しておくか……とほほ。


「ソフィア!? 無事か!!?」


「落ち着け! 大丈夫だ、避けてたから」


 意外なことに、ウォルフが私の心配をしてくれているらしい。


 宥めているカイルには私の避ける動きが見えていた様で……って、あー、そういう事か。つまりウォルフ以外はみんな、私が避けてたのまでは見えてたわけね。だからお兄様もあの切羽詰まった声を掛けてくれた割に、慌てていないと。うむうむ。


 ……ああ、やっばい、ニヤける。

 お兄様に心配されるの、やっぱりめちゃくちゃ嬉しい。


「このバカもんが!!!」


「イタァッ!!?」


 怒号と叫び、ガツッと固いものを叩く音が聞こえたのは、ミュラーがお叱りを受けているのだろう。


 いやあ、それにしても……。


「……あはは」


 私は粉塵の収まってきた道場の床を改めて見て、乾いた笑いを零した。


 ……随分と大きな穴を開けたもんだね、ミュラー?


「今のすごいな!ちっちゃい身体って剣も振れないし不利かと思ってたけど、あんな戦い方もあるんだな!あのちっちゃいのすごいな!」


この短い時間に十回近くもちっちゃい言われて、温厚なソフィアさんもほら、笑顔になっちゃってますよ。

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