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剣姫vs聖女


「存分に剣で語り合うといい。……さあ、相手を打ち倒せ! 勝て!!!」


 相変わらずの合図を受けて、私とミュラーは同時に動き出した。


 ミュラーは前へ。


 私は横へ。


 ミュラーに向かっていくつもりがなかったのもあるけど、一番の理由は別のところにあった。


 ……視界にお兄様が入るとどうしても気になっちゃうんだよね。


 お兄様におしりを向けてるのもそれはそれで気になるけど、今日は初めから運動するつもりの服装で来たからスカートがめくれてきゃあっ! なんて展開もない。そもそも私の貧相なおしりなんて誰も興味を持たないだろう。


 ……悲しくなんてないですけど!?


 とにかく、ミュラーは油断して相対していい相手じゃない。


 気を抜いたら一瞬で負けることだって十分にありえる相手だ。


「……隙だらけねッ!!」


 ……あれ? むしろ一瞬で負けた方が良くない? と弱気の虫が囁くが、普段は戦いなんかとは無縁のところにいる平和主義者のこの私。


 猛スピードで木剣が顔面目掛けて突き込まれてきたら、思考よりも先に身体が勝手に避けちゃうビビりなんです。


 ビビりだっていいじゃない。女の子だもの。


 まだまだ小手調べなのかミュラーの最高速には程遠い。

 それを証明するように、ひょいっと頭を避けた私を見て、ミュラーが凄惨に笑った。


「ふっ!!」


 え、蹴り? 嘘でしょ?


 初撃を避けられるのは計算済みだったのか、流れるような蹴りが飛んできた。それも木剣で視界の遮られた右側から。


 慌てて木剣で受けようとしたが、その途端に蹴撃の軌道が跳ね上がる。


 ――遮るもののない攻撃の向かう先は、私の頭だ。


 だからなんでミュラーは私の顔ばっかり狙うの!?


 意識を集中して、迫るくるぶしの中心を見切り、身体強化で威力を増した拳をぶち当てた。


 少しは痛がれ! という気持ちでアッパーを繰り出したものの、思ったよりも効果は薄い。


 思い切り跳ね上げるつもりで打ったというのに。


 僅かに勢いを殺し軌道もズレさせることには成功したが、その脅威は未だ健在。

 無理な体勢で避けた私の頭のすぐ上を、ミュラーの脚が髪をかすめながら通り抜けていった。


 ……普通に怖いです!!


「初見で避けるなんて、さすがね。結構自信があったのだけど」


 言葉とは裏腹に全然残念そうじゃないミュラーさんが私、もう信じられません。


 結構強めに殴ったのにあれだけしか効果がないって、ミュラーさん本気出しすぎじゃありませんか? これはただの手合わせだって、私、何度も言いましたよね?


 もしも初めに立ち位置を変えていなかったら、木剣を突き込まれたあの時に私が「あ、お兄様が見てるー♪」とかやってただけで死亡確定というか、容赦なく身体強化増し増しにしてくれちゃってるミュラーの人を殺せちゃうキックが私の頭に炸裂して、頭がパァン! と……、な事にはならないだろうけど。


 でも思わずそんな想像をしちゃうくらいには怖かったよ! とてもとても怖かったよ!!?


 魔法でガチガチに守ってるから例えぼーっと突っ立ったままで受けても痛みはなかっただろうけど、それはあくまで私視点の話であって。


 私の身体がどんなに攻撃でも突発できない最強の魔法で守られてるなんてことは、お母様だって知らない……、……いや知られてる可能性はあるかも。あの人エスパー並に鋭いし。


 ごほん。

 私の敬愛するお兄様にだって知られていない…………、……でもお兄様って結構色んな事知ってるっていうか、何も言わないけど全部察してるみたいなとこあるし、もしかしたら……。


 と、とにかく! ミュラーは私が身体強化できるなんてことは知らないはずなの!!


 ……と思ったけど、前に見せたことあったね! カレンちゃんの体質改善の時に、地面に剣埋め込んだりとかしてたね! 浅はかすぎるぞ私ぃ!


 そっかーだからかー。

 そうだよねー。私が身体強化できるって知らなきゃ素で受けたら首が持っていかれそうな威力の蹴りなんかふつー打たないよねー。はっはっはー!


「次は当てるわ」


 いやこの子は打つな。絶対打つ。実際頭割られそうになった前科あるし。


 世が世なら、ミュラーは【剣姫】なんて雅な渾名(あだな)じゃなくて、【首狩り族】とか呼ばれていたんじゃなかろうか。


「ソフィアには特別に、私の一番得意な技をお見舞してあげる!」


 どうしよう、ミュラーさんがノリノリである。


 どうでもいいけど試合前に「剣で語ろう。言葉は無粋」的なこと言ってたのはどうなったの? むしろ普段の五割増で饒舌だけど自覚あります?


 突っ込んでみたい気もするけど、でもノリノリなミュラーの口上を聞いてものすっごい楽しそうなカレンちゃん見てると、なんだか水を差すのも悪いよーな気がしてくる。


 っていうかみんなまじまじと見すぎ。視線が痛いよ?


 なんて余所事に気を取られてたら、いつの間にかミュラーが木剣を構える手に、尋常じゃない量の魔力が集まっていることに気がついた。



 ……え? それ、私に放つの? 嘘でしょ?


剣聖「剣で語り合うといい」


剣姫「蹴りぃ!」

聖女「殴るぅ!」


剣で語り合う気ゼロ。

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