お母様とヘレナさんの友情を喜ぼう
私のことを諦めたお母様のことを諦めたヘレナさん。
もうなにがなにやら。
分かりやすく説明するなら、私の魔法に関する全てについて深く考えることを諦めたお母様を、自分の娘のことなんだからもっと真剣に考えなさいと考えを改めさせようとしたけど、結局改心させることはできずに諦めたヘレナさん。
人って諦めが肝心だよね。
そんなヘレナさんに連れられて魔法の実習に使うという部屋にやってきた我々である。
魔法実習室の第一印象。
めっちゃ体育館。
「ここの建材には希少な素材も使われていますから一際頑健で内部の構造も、あ、じゃなくてえっと。このお部屋はすっごく丈夫だからー、魔法を使っても大丈夫なんだよー」
実習室の説明をしてくれていたヘレナさんが。
……ヘレナさんが壊れた。
えぇぇ、なに? 知的なお姉さんが急にアホっぽくなってしまった。しかも声のオクターブまで上がってる。怖い。
何が起きたの? あ、これってもしかして精神魔法とかいうやつかな?
まさか知力が下がる状態異常が現実になっちゃうとこんな感じになるのか。
怖い、デバフ魔法怖い。
「ヘレナ、その喋り方のせいでソフィアが怯えてますよ」
「え!?」
お母様の言葉でヘレナさんの雰囲気が元に戻った。
必死にコクコクと首を振ってお母様に全力で追従する。
「そ、そうですか……」
なんだかしょんぼりされたけど、つまり今のは、自主的に、変な話し方してたってこと?
なんのために?
研究者って普通に見えてもやっぱり変人なのかな。知的クールなのに勿体ない。メガネなのに。
お母様が手招きしていたので解説を求めて近寄った。
「さっき私とヘレナが言い合いをしていたでしょう? 恐らく、その流れで貴女の母として相応しい振る舞いを見せつけようと思ったのでしょう」
「……どういうことですか?」
母に相応しい振る舞いを見せつける……誰に? お母様にかな?
それとさっきの行動の因果関係は?
「彼女も国の最先端を担う研究者ですから、学院の生徒以下の知識しかない人物に教えることに慣れてないのです。あの話し方は、彼女が子供でも理解できる言葉に落としこもうとした結果です」
子供って私だよね。
ヘレナさんがそんなにすごい人だとは知らなかったけど、あの話し方は私に合わせようとしてくれてたのか。ありがたいことじゃん、壊れたとか思ってごめん。
でもさ。
「でもさっき、研究室の方で難しい話も普通にしてましたよね?」
「自分の考えに没頭した研究者は時として簡単な見落としをすることがあるのです」
なぜか目を逸らしながら言われた。
身に覚えがあるんだね。
それにしても、ヘレナさんのことがそれだけ分かるってことは二人はとっても仲が良いってことだよね。
お母様にもちゃんと友達がいたと知れて、娘としても嬉しい。
一時期はお母様って友達がいない人なのかと心配してたけど、ヘレナさんがいれば安心だね。よかったよかった。
「お母様、ヘレナさんと仲がいいんですね」
「なんですか急に?」
「いえ、お母様が楽しそうで、私も嬉しくなっちゃっただけです」
「……そうですか」
言葉だけは素っ気なく答えたお母様は、けれど嬉しそうな顔で、ちょっとだけ恥ずかしそうに笑った。
「……娘って、いいなぁ」
蚊帳の外に置かれたヘレナをすかさず慰めるフェル&エッテ。有能。