魔法の説明を聞こう
魔法学の基礎。
初心者向けに優しくしてくれたのもあるだろうけど、大体知ってることでした。
行動範囲の狭い私が家で魔法を学ぶのに大きく貢献してくれた『魔法学入門』。
あの本は本当に入門編だったようだ。
それどころか、新しい魔法の発明なんて学院の授業でもやらないらしい。
一部の奇特な教師が趣味でやることであって、本腰を入れてやるには割に合わないと。
そもそも新魔法なんてほぼ概念上の存在を信じて教師生活を棒に振るなんて、もっと現実を見なさいよ、と。いい歳なんだから夢を追い続けるばかりじゃなく男も追い求めなさいよ、と。
心配してくれてるのは分かるけど研究を手伝ってはくれないと嘆くヘレナさんの愚痴に付き合う羽目になった。
新しい魔法ってそんなにありえないんですか? と軽い気持ちで聞いただけなのに。
地雷は見えないから地雷なんだと反省した。
そんなヘレナさんも言われたい放題のまま何もしなかった訳ではなく、魔法の発現には具体的なイメージが大切だと理解しているようだった。
イメージが崩れれば魔法は成立しない。
それほど重要な要素なら、イメージを核にして魔法を構築出来ないだろうかと試したこともあったそうだ。
だがその時は、四大元素に係わるものなら微かな手応えはあったが、それだけ。
詠唱を核にした方が目に見える成果が出るので、自然とそちらの研究に比重が傾いたとか。
いやー分かるわー。
イメージ固めるのって難しいのに、しっかり固めとかないと魔法が発動すらしないから、このやり方で合ってるのか不安になってくるんだよね。
そんで、できるかどうか不安な状態で魔法使ってもできるわけなくて、やっぱりだめかー、ってますます成功率下げちゃうの。
これはもうね、「昨日失敗した? そんなことは忘れた!」くらいの開き直りしないと悪循環から抜け出せないと思うのよ。
ヘレナさん、真面目そうだし、どう考えてもドツボにハマって抜けられないタイプだよね。メガネだし。
魔法の発動に必要なイメージが100だとすると、90くらいまでは無反応なんだよね。
反応するって言っても使った属性が分かる程度だし。98くらいでようやく手応えというか、形になってきて、後一歩! って実感が湧く。
あらかじめ方法が合っていると知っていて、かつ愚直に信じ続けないと辿り着けない。
うん。新魔法、そりゃできないわな。
それでもひたすらに試し続ければ、いつかは……とも思うけど、普通は私みたいに魔力が枯渇しないわけではないみたい。
魔法を使えば保有魔力が減る。
自覚無しに私が変なことしてるんだろうね。
魔法を使ってるのに保有魔力が減らないなら、その分の魔力がどっかから供給されてるはず。
その実験をするそうだ。
魔法に使われている魔力の源を特定し、本当に無限の魔力を使う方法を確立することができれば、魔法の歴史が変わる。それほどの大発見だそうだ。
ふーん。そうなんだ。
お母様に話した時にもそれほどの反応はなかったし実感なかったけど、なんか私がしてる事が大事っぽく聞こえる。あ、やっぱり大変な事なんですね?
反応薄いって何故かヘレナさんに怒られる羽目になったけど、ほとんど家から出ない私に常識を求められても困る。
そーゆーのが分からないからお母様を通しているのだ。マネージャーさん仕事して! とばかりにお母様に責任を押し付けてみた。
ヘレナさんが怒る。お母様が諦めたわと答える。
他所の子供の教育方針にこれだけ熱くなれるなら、ヘレナさんはいいお母さんになれそうだね。
うちのお母様を御覧になって? 娘の事、諦めすぎだと思うの。常識外れの自覚はあるけど、そんなに諦めたと連呼されると流石に傷つくよ?
ヘレナさんが落ち着くまで、お茶とお菓子を堪能しつつのんびり過ごした。
「ソフィアが魔物を簡単に捕獲した時から、あの子の魔法とは理解不能なものだと諦めることにしています」