表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
519/1407

友達いない歴ウン億年


 シンが謝るのを見届けると、女神様は唐突に、私に握手を求めてきた。


「さて、シンとソフィアの確執もなくなったことだし。ソフィア。私とお友達になりましょう。これからは気軽に『ヨル』って呼んで?」


「ヨル!? 何を言い出すんだ!!?」


 何を言い出すんだこの女神様は、と思う間もなく、瞬速でシンが女神様に突っ込んでた。


 この神様、攻撃だけじゃなくツッコミも早いね。


 しかしそんな文字通り神速のツッコミも、女神様にとっては予測の範囲内だったようで。


「シン。私は彼女に、この名前で呼ばれたいの。……あなたなら、分かってくれるでしょう?」


 ね? と、見るからに誤魔化す気満々の、甘えるような仕草でシンを見つめ始めた。


「……分かりました」


 神速で折れる神様。


 女神様の美貌で甘えられたら折れちゃいたくなる気持ちも分からないではないけど、納得するのが早すぎる。


「というわけだから、ソフィア。ヨル、って呼んで?」


 そして再び私に標的が移るっていうね。


 人畜無害そうな、穏やかな表情。

 でも瞳の奥には楽しそうな色を隠しているようにも見える気が……うーむ。


 ……まあ名前で呼ぶくらいなら、いいけど。


「分かったよ、ヨル」


 女神様って敬ってもない敬称で呼ぶよりは、私もこっちの方が好きかな。


 にしても、ヨルって人名っぽくなくてなんとなく呼びずらいな。これってヨルムンガンドの略? それとも夜の方かな?

 今日も黒い服着てるし、ヨルは黒が好きなのかもね?


 私の思考をよそに、名前で呼ばれた女神様はご満悦だ。


「ふふ。これってとてもお友達らしいわよね。お友達と名前で呼び合うのなんて、何億年振りになるのかしら」


 しみじみと噛み締めるヨルからぽろりした年数がエグい。


 やめて。地味に重い。


「シンは友達じゃないの?」


「あ゛?」


 わぁお、素直な疑問を呈しただけで睨まれましたよ? 助けてお友達のヨルちゃん!


「シンは、友達という感じではないのよね。……家族と言った方が近いかしら?」


「家族……!!」


 ヨルに家族認定されたシンが子供のように顔を輝かせてヨルを振り向いた。


 尻尾があったらちぎれそうな程に振りまくってるだろうその様子は、見つめ合う神と女神という、宗教画にでもなりそうな場面には似つかわしくない雰囲気で。


 その姿は……どこから、どう見ても……。


(これ、犬だよね?)


 従順な犬だった。わんちゃんだった。


 まあ、ペットは家族の範疇ですけどね。


(可愛いでしょう?)


 念話を飛ばしたリンゼちゃんが何故か自慢気である。


 満足気なリンゼちゃんもかわいい。


「だからソフィアとお友達になれてとても嬉しいわ」


 そして女神様も満足気だった。


 ……お犬様も嬉しそうだし、いいのかな?


 にしても、美人の笑顔ってやっぱりずるいと思う。


「私も、嬉しい……かな?」


 気の利いた言葉も言えない。


 いやだって、ヨルってば本当に嬉しそうなんだもん。これは茶化せないって。


 何億年振り~なんてのも冗談じゃなさそうな雰囲気。


 これはかなり、人とのコミュニケーションに飢えていたのかもしれない。


 変に私に絡んでくるのも、人恋しさ故にとか、単にテンション上がってる的な?

 私の反応を楽しんでるのは確かだけど、なんだかはしゃぐ子供のような印象を受けるんだよね。


 ……女神って、やっぱり孤独なのかな。


 だとしたら、私と友達になるというのは、案外良い選択なのかもしれない。


「私もヨルと話すのは、楽しいし」


 聖女。


 神に最も近い、前例の少ない役職。


 女神様を信仰するのだと言われてもピンとは来ないが、()()の手助けならば割と得意だ。


 筋金入りの引き籠もりで、かつ寂しがり屋のお友達(女神様)と仲良くなって、何か困っていたら手を貸す。それがお仕事。


 おおう、いいね……アリだね!


「でも急に部屋にいるのは止めてね。びっくりするから」


 卒院後の私は、一体どうなるのだろうかと。


 今までもやっとしていた霧が、少しだけ晴れた気がした。


「……そう? でも、そうなると……」


 思案する女神様の姿に頬が緩む。


 突拍子もないことをしでかす困った女神様だけど、友人としてなら、私もうまくやっていけそうな気がする。


 先ずは連絡手段を確立して、その後は……うーん。


 リンゼちゃんも交えて相談かな?


「私も今日からこの部屋に住めば良いということかしら?」


「全然違うね」


 うん、何もかもが違うね。

 誰だ? こんなのとうまくやっていけそうとか思ってたのは。常識が違いすぎて話にならない。


 傾国の美貌に危うく絆されそうになってたけど、私以上に魔法に卓越した天然系イタズラ好きと同棲とか私死んじゃう。自室は最後のオアシスだから危ない人はノーサンキューです!


「あら、私の事は誘ったのに、女神の私の誘いは断るの?」


 断固拒否ってたら、何故かリンゼちゃんが敵に回った。


「それはおかしな話よね。なんなら私とその子、三人で暮らすのはどうかしら?」


 ……リンゼちゃんと、一緒に寝……いやいやいや!!


 私は屈さない!

 そんな甘言に、私は騙されはせんぞぉ!!


神様は女神様の前ではとってもいい子。

自慢のかわいい子です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ