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幼馴染みの恐怖


 勉強の合間の休憩は、頭を空っぽにして楽しむのが一番である。


 フェルの出番だね!


「うふふっ、これ、首のところ、くすぐったいわね。ああ、でもかわいい。フェル、だっけ? お利口さんね」


 というわけで、ミュラーはフェルと戯れている真っ最中なのでした。

 フェルがかわいくてお利口なのは当然だけど、今のミュラーもかなりかわいいと思うよ。


 フェルと幸せそうに戯れるミュラーを見てほのぼのしてたら、くいっと腕を引かれるいつもの感触。


 カレンちゃんが、潤む瞳で懇願してきた。


「ね、ソフィア。あの、私も……」


 うむ、うむ。分かりますとも。フェルの魅力に勝てる女子などいませんとも。


 私はカレンちゃん用にエッテを召喚した。


「キュイー!」


「わああ……!」


 呼ばれてすぐに、心得ているとばかりにカレンちゃんに可愛がられに行くエッテ。

 これがプロのペットの仕事ですよ。


「かわいいわね~」


「かわいい……!」


 なでなで。もふもふ。なでりこなでりこ。にぱー。


 かわいい女の子とかわいい小動物が戯れるこの空間は今、天国と化した。


 この光景を見られた幸福に感謝するといい、思春期男子たちよ!! と先程の微妙な敗北感を払拭するように、バッ!! と振り向けば、カイルとバチりと目が合った。完全にこちらを見ていたカイルと、真正面から目が合った。


 ……なぜにこの素敵な光景を差し置いて、私を見るのだ、少年。


 まあ私も見た目には自信あるけどさ、女の子×小動物のスペシャルタッグには流石に勝てないでしょ。


 だって見てよ、ミュラーのあのニヤけた口元。カレンちゃんの幸せそうな笑みを。眼福でしょ? 今しか見られないよ? ウォルフみたいに見なくていいの? と思ってたら、なんだか気まずそうに顔を背けながら、でも同時に呆れた雰囲気も醸し出したカイルが「あのさあ」と寄ってきた。なんて器用な真似をするんだ。


「お前、その……それ、やめろよ」


「それってなに?」


 この光景を焼き付ける為に脳内で「うおおお!!」と奇声を上げながら激写しまくってることを指摘されたのかと焦ったけど、カイルはこの(映像記憶の)魔法の存在は知らないはず。となるとフェルたちを呼び出したことかな?


 ははーん。さてはフェルたちと楽しげに交流するミュラーたちが羨ましくて羨ましくてしょうがないから、こんな光景をみせつけないでくれぇ、とそういうわけかな? 私に「フェルに触らせてくれ」と頼むのは気に食わないから、いっそ視界の外にやってくれと。ほうほうなるほどー?


 カイルってば実は小動物好きだったのかー。これはいいネタが手に入った……なんて思っていると。


「……いや、だからさあ。……あの生き物、服の中に入れとくなって話だよ……」


 なんだか思っていたのとは少し意味合いが違う様子。


 もごもごとなんだい、はっきりと喋りなさいよ。

 男子の小動物好きが恥ずかしいんじゃないのなら、一体なにをそんなに恥ずかしそうに……、……? 服の、中?


 そして、気付いた。カイルの挙動不審の理由に。


 言いづらそうに。恥ずかしげに。

 私の洋服に隠された腕やら胸やらお腹やらを、ちらちらと見る、その視線の意味に。


 ………………えっ、ちょ、待て待てぇい! え、やだ、そーゆーこと!? カイルってそこまでレベルの高い変態だったの!? マジで!!?


 身体を舐めまわすように見つめるその視線に、思わず自分の身体を抱き締めた。


 いやいやいやいや。カイルがまさか。そんなバカな。


 まさか、まさかカイルが……ッ!!


 私の袖から出てきたように見せてるフェルたちを見て「ソフィアの素肌で温められたケモノちゃんたちハアハア」とか思ってたわけ!? あまつさえ「ソフィアの体液の染み込んだ毛並みハアハア!」とか考えて、「あのケモノちゃんたちを撫でれば間接的にソフィアの身体を撫で回したコトにハアハア!!」とか妄想して興奮してたと!!? このド変態がぁ!!!


 ゾワゾワと鳥肌が立つのも隠さずに、私は変態へと変わり果ててしまった元幼馴染みに絶交を告げた。


「ごめん、カイル。私変態の友達を続ける自信ないや。もう近寄らないでくれる?」


「今度はどんな勘違いをしたんだよ……?」


 それを私の口から説明しろと!? あああんまり変態なプレイに私を巻き込まないでくれないかな!?


 カイルの怒涛の責めにビクビクしてたら足元から「キュッ!」と愛らしい鳴き声が。


 どうやらカイルで遊んでいる間に初めに伝えていた休憩時間が過ぎたようだ。


「じゃあそろそろ休憩終わりにしよっか。はい、カレンもエッテを解放してねー」


 カレンちゃんからエッテを回収し、フェルにまだ触りたそうにしていたミュラーの意識を勉強へと誘導する。


 一瞬前の怯えた姿からコロッと態度を変えた私を見て、カイルが呟いた。


「……これだから、ソフィアの相手すんのは疲れるんだよな……」


 はあ、と溜息を吐いたのが分かる。


 ふふふ。そんなこと言ったって、本当は……ねぇ?


 カイルが私に構われるの結構好きだって、君のお父さんから私、聞いてるんだからね?


大人の前では基本、良い子を演じているソフィアちゃん。

父の友人からプライベートな情報を聞き出すくらいお茶の子さいさいなのだ。

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