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治療自体は簡単でした


 ヘレナさんの症状の原因は判明した。


 ならばどうする?


 それはもちろん、ちゃちゃっと原因を取り除くしかないでしょうね。



◇◇◇◇◇



 というわけで、ハイ。


 これにて処置は完了でございますです、ハイ。


 ヘレナさんの身体の中から魔力欠乏が継続する原因であったと思われる暗い魔力をすっかりと抜き取って、代わりにヘレナさんの魔力をちょこっと増やしてね、あげたからね。もうだいぶ楽になったと思うんだよね。ウン。


 いやー案外簡単に済んで良かったねぇ、あっはっは。


「……ソフィア様。あの」


 声を掛けられて、ぴくんと肩が跳ねた。


 気もそぞろにヘレナさんの体調を確かめていることがバレたかな? とシャルマさんの方を見れば、しかし不真面目な私を咎めている様子は無く、ただただ困惑を露わにしていた。


「それは一体なんなのでしょうか」


 ()()、と指さされた先には、私の手の中で黒光りする魔力の固まり。


 ヘレナさんから採取した暗い魔力を肉眼で視認できるまでに圧縮・固定化した物体だった。


「……これがヘレナさんを蝕んでいた原因です!」


 パヤパパッパパーン! と魔力塊を掲げ持つ。


 そう、全ての原因はこの悪い魔力さんのせいだったのだ!


 このこの! 悪い魔力さんなんてこうして潰して固めてくれる! えいえーいっ!


 こうして悪は、私の手の中に潰えた。


 だからもう安心だヨ☆ とどこか戸惑った様子のシャルマさんに笑顔を向けるも、なんだか反応は微妙そうだ。やっぱ真面目系の人は勢いだけじゃ誤魔化せないか。誤魔化せるとも思ってなかったけどさ。


「なんだか、見るからに悪影響を及ぼしそうな雰囲気は感じ取れるのですが……」


 で、それ、なんなの?

 シャルマさんの目が、そう言っていた。


 言うべきか、言わぬべきか。言うとしたらどこまで話すべきか。


 悩んだ末に。


「これ、ヘレナさんが変質させた魔力です」


「変質……?」


 シャルマさんには状況を正確に伝えるべきだと判断した。

 何も言わないでいたら復活したヘレナさんがまたすぐさま倒れる事態になりそうだからね。


 そうと決まれば早速、とシャルマさんに現在の状況の説明を始めた。



 ……まあ、今回の件を一言で表すなら。


 つまるところ、ヘレナさんの自爆にすぎない。


 何がどうなって身体の中をこの変質した魔力が巡るような事態になってしまったのかは知らないが、大方毎日のように魔力をこの暗い魔力に変換する練習でもしていて、その作業による魔力不足を暗い魔力で補えないかとか考えちゃったんだろう。昔の私並みに浅はかで涙が出るね。


 そんな感じで自ら異質な魔力を迎え入れて正常な魔力が満ちるのに必要なスペースを圧迫し、エターナル魔力欠乏状態継続中、と。


 私も自分の身体で色々試したことあるし、新しい魔法ができて調子に乗っちゃう気持ちもわかるから、ヘレナさんを一概には責められないんだけどね。でも失敗した時の対策くらいは立ててから倒れるべきだったかなーとは思っちゃうよね。


 そこだけは失敗だったけど、でもシャルマさんが今回の原因を正確に把握した今、もう同じ失敗は起きないだろう。


 ヘレナさんには早く元気になって、またおやつを提供してもらわないとね!



「――そんな感じなので、これからあの魔力を扱う時には気をつけさせて下さい。あれは……使い方によっては、かなり危険な事もできそうですので」


 暗い魔力が及ぼしていた影響を説明し、現在のヘレナさんは大事無いと確認させ、感謝の言葉と感謝の物品(おかし)を受け取る約束をして。


 最後に再発防止の為の注意をシャルマさんに促したら、私の役目は終了だ。


 詳しくは()()分からないけれど、あの暗い魔力が普通の魔力と明らかに違うのだけは確かなことで。


 言うなれば、そう。

 この暗い魔力の性質は、魔力の枠に収まっていない気がする。


 ……リチャード先生の研究室で、女神様が見せた黒い玉の魔法。


 もしかしたら、あれに近いのかも――


「分かりました。これからはしっかりと見張っておくことにします」


 と、考察は後でゆっくりするとしよう。


 いまやぐうたらと惰眠を(むさぼ)っているようにしか見えないヘレナさんに、言葉とは裏腹な優しい顔を向けながら、シャルマさんが意気込む。


 今は……うん。


 緊張の緩んだ、この空間の雰囲気に酔いしれよう。



 安らかな寝息を立てる主と、それを見守る従者。



 やっぱりこーゆー幸せなのがいいよね。


「では、私はこの後も用事があるので」


 さて、二人きりの安らぎの空間にお邪魔虫は不要。


 さっさと退散しようとしたところで、シャルマさんに呼び止められた。


「あ、お待ち下さい。その、ソフィア様の言うところの、暗い魔力? の、固まりはどうされるのですか?」


 …………ああ。


 ……気付かれたかぁ。


 くぅっ、このままさらっと持ち出せば後で研究し放題だひゃっほう! とか思ってたのに!

 流石は研究者のパートナー! 研究成果の持ち出しに目を瞑ってはくれないかっ!!


 でも、……ぅぅう!!


 私は往生際悪く、しれっと笑顔で答えてみた。


「……私の方で、処分しておこうかなーと」


「今度お礼に特別なお菓子を」と言われた時のソフィアさんは、それはそれは瞳を輝かせていたそうな。

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