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ヘレナさんの症状


 シャルマさんから話を聞いて、早速ヘレナさんのお家へとお邪魔した。


 馬車で移動している頃には既におおかたの状況は把握済みで、それら魔法を使って自前で集めた情報に加えてシャルマさんから得られた情報と、更には私が直接ヘレナさんを診断した結果を含めて総合的に判断した結論。ヘレナさんのこの症状、原因はズバリ……。


「魔力の欠乏ですね」


 既にお医者さんが診断を下していたように、魔力不足が原因と断定して間違いなさそうだった。


 魔力欠乏って魔法が使えるようになったばかりの子どもが調子に乗って魔法を使いすぎた時とかに良くなるやつなんだよね。

 自分の魔力の残量を感覚的に把握出来るようになった大人がなることは少ないけど、職業柄無理をする事もある騎士様や山賊の人なんかだと、なくもないかなって感じ?


 喪神病なんかと比べると良くある病気って認識だから、正直なところ、少しは安心かなというところではあった。


 いやまあ、症状が重ければ命の危険もある病気ではあるんだけど……所詮は日射病みたいなもんだよね。普通は寝てれば数時間で勝手に治ると思うよ。


 ……これがただの魔力欠乏だったら、の話だけどね。


「はい。お医者様も、ただの魔力欠乏だろうとの診断でした。……しかし、もう三日目なのです。魔力欠乏が三日間も続くだなんて、そんなことは聞いたこともありません。けれど、何度お医者様に診ていただいても、別のお医者様にお呼びしても、結果は……」


 結果は変わらず、魔力欠乏としか診断されなかった、と。


 それはそうだろうな、と思う。

 これは別にお医者さんが無能だとかそういった話ではなく。


 ヘレナさんが魔力欠乏の症状で苦しんでいるという診断自体は、決して間違いではないのだから。


 これは単に、ヘレナさんが問題なのだ。


 身体から漏れ出た魔力しか()えないような、大雑把な、いわゆる普通の魔力視と呼ばれるモノでは単なる魔力欠乏としか診断できないのかもしれない。


 けれど私の魔力視(それ)は精度が違う。

 魔力の持つ特性や質、細かい粒子一粒一粒の動きまでをも正確に捉えられる私の魔力視では、ヘレナさんの異常さがひと目でわかる違和感として明確に視認できていた。


 ……例の、暗い魔力が、ヘレナさんの身体の中に充満しているのだ。


 視るからに(いびつ)なマーブル模様。


 暗い魔力といつものヘレナさんの魔力とが決して混ざることなく身体の中を循環していて。

 その様はまるで、血液に泥が混じって流れているような。視ているだけで怖気が走る異様な光景。


 そしてこの暗い魔力のせいで、身体が活動するのに必要な分の魔力の供給が阻害されているのだ。


 この光景を、シャルマさんが見ることが無くて良かったと心底思う。


 知らずに済むなら、こんな現実は知らなくていい。


 余計なことは言わずにさっさと治してしまおう。

 その為には、未だ私が医療行為をすることに抵抗がありそうなシャルマさんに、より深く信頼される必要がある。


 私はデキる医者っぽく、前に診察したお医者さんがまだ告げていない、現時点ではシャルマさんしか知り得ないはずの情報を口にした。


「ヘレナさんの症状は魔力欠乏。しかし安静にしていても治る気配はなく、むしろ徐々に悪化している……ですね?」


 シャルマさんは私の見解に驚きを示す。


「……悪化しているんですか?」


 今度は私が驚きを示……さない。涼しい顔をしつつ、心の中だけで驚きを留めた。


 なんとシャルマさんしか知り得なったはずの情報は、シャルマさんすら知り得ない情報だった。


 ミスった。これは余計なこと言ったわ。


 すかさず「まだ悪化していないのなら不幸中の幸いでした」とフォローしておいた。デキる医者っぽさは宇宙の果てへとかっ飛んで消えたが、シャルマさんを不安にさせるよりかは断然マシだ。


 いや、これね。初めて視る現象ではあるんだけど、この暗い魔力。どうも普通の魔力を変質させてるみたいなんだよね。


 人の身体って自然に魔力を精製しているから、普通の魔力欠乏だったら数時間も放っておけば自然と魔力も回復する。だるさくらいは残るかもしれないけど、本来なら何日もベッドに寝たきりになるような病気じゃないんだ。


 だけどヘレナさんの場合は、新たな魔力が精製された先から暗い魔力が侵食して、少しずつ暗い魔力に変えている。

 身体が欲しているのは通常の暗くない魔力だから、身体は健康、魔力の精製にも異常はないのに常に魔力欠乏状態。


 正常な魔力は決して足りることがなく、そして本当に微々たる量ではあるが、身体を巡る魔力は暗い魔力の割合が多くなりつつある。このまま病気の進行を見守り続けていれば、やがては完全な魔力枯渇状態へと至るだろう。



 ……私が来ていなかったら危なかったかもしれない。


 けれど、私はここにいる。


「大丈夫。これなら治りますよ」


 そう、今なら不安なく治せる。間に合ったんだ。


 ならもう、何も心配はいらない。


 あとはヘレナさんを侵しているこの原因を――取り除くだけだ。


視える事によって治せるのは良い事だけれど、お気楽なソフィアさんにも隠している内面というものがあります。

静脈を覗いたら血液とは違う異色の何かが大量に混ざっているに等しいこの現状。

顔色を変化させず、鳥肌も立たせず、息を呑む事すらもせずに「大丈夫」と微笑むその心遣い。


天使ですね☆

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