甘く痺れる兄妹スキンシップ
カイルは以前、確かに言っていた。
お兄様に頼まれたと。
詳しい話を聞いた訳では無いが、その点は別に疑っていない。
カイルとも長い付き合いだ。嘘かどうかなんて大体分かる。
と言うよりも、私にバレた時のリスクが絶大なそんな嘘を、わざわざカイルがつくとは思えない。
カイルはよく私を怒らせるが、ちゃんと引き際は知っている。
冗談では済まなくなるラインを超えた時の乙女の怒りがどれほどのものか、ちゃんと骨身に叩き込んでおいたからね。
……ならば私は、一体何を望んでいるのか。
カイルが時たま私の行動に関与するのはお兄様の意向である、という当たり前のことをわざわざお兄様に確認するのは何が目的なのか。一体どんな返事を期待しているというのか。
その答えはもちろん――。
――顎に添えられた手が私の顔を持ち上げると同時に、お兄様の柔らかな微笑みが目に飛び込んできた。
「もちろん、ソフィアを守る為だよ」
すり、と頬を撫でた指先が、私の背筋を震わせる。
ゾクリとした感覚に身体中に痺れが奔り、未だ握られたままの反対の手からはお兄様の熱がじんわりと伝わってきた。
そーそーこれこれこれこれぇぇぇええ!!!
お兄様による激甘空間! 自分がお姫様にでもなったかと錯覚するような紳士的な扱い!!
これぞ私の求めていた究極の癒しですよ!!
本気で私の事を大切に思ってくれているお兄様のこの優しさに溢れた瞳に見つめられただけで、私はもう、胸が暖かさでいっぱいになって、頭がぽーっとしてしまうのだ。
はあ、愛され過ぎてつらい。
もちろんこのつらさは幸せの象徴でありながらなおかつお兄様に与えられる苦しみという点からしても全く憂う必要なくむしろ全身全霊でいつでもフルオープン受け入れ準備完了カムヒア! 状態の愛すべき痛みなんですけどね!
この苦しさも、愛! 愛なんですよ!!
ってゆーかお兄様は顔も声も破壊力バツグンだけど、その真骨頂はやっぱりフェルたちすらも虜にするその手技にあると思うのよね。
今も、その……。……さ、さっきから絶妙のソフトタッチで私の頬を撫でる、この指の動きとかね?
あとその、……わ、私の手の甲とか、指とかを優しくすりすりっと愛撫する、お兄様の……あふぁっ♪
あ、危ない。危うく変な声が出ちゃうところだった。
指の動きだけで女の子を骨抜きにしちゃうなんて、お兄様ったらテクニシャンすぎだよぅ……!!
女の子を虜にする笑顔を浮かべながらすりすりさわさわしてくるお兄様の手技の威力たるや、私が妄想の中でお兄様の情熱的なキスに蕩けさせられている時に匹敵するレベルで……。
………………まあ、有り体にいえば。
……そろそろ身体が疼きすぎて我慢できなくなっちゃいそうなので、勘弁して下さい…………って感じ。
着替え持ってきてないのにどうしようね。
嬉しいのに、お兄様と想像以上のイチャイチャができて嬉しいのに、嬉しすぎてなんかもう涙まで出てきている私でした。
これが帰りの馬車だったら、後のことなんか何も気にせず欲望に溺れるのに……ッッッ!!
「学院ではどうしても傍にいられない時間が多いからね。いざと言う時にはソフィアの力になってくれるように、カイル君達に頼んでおいたんだ」
身の内を焦がす衝動と必死になって戦っていると、顔から手を引いたお兄様が何やらカイルの名前を出してきた。
なんでここでカイルの名前が?
と疑問を覚えた事により少しの理性を取り戻した頭が、それまでの話の流れを思い出す。
……そーいえば、最初にそんなような事を聞いた気がする。
「カイルに何か頼んでたって本当?」だっけ? お兄様の魅力を余さず堪能するのに意識の全てを傾けてたからすっかり忘れてたね。
ふむん、そっかそっか。カイルをね。
いざという時はお兄様の助けが来るまでカイルを生け贄にして時間を稼げと、そういう事ね! 了解ですっ!
全てを理解した私は、お兄様に笑顔を向けた。
「お兄様、ありがとうございます。お兄様がいつも私のことを気遣ってくれるの、とっても嬉しいです」
私の言葉を聞いて、お兄様も笑みを浮かべる。
「ソフィアが喜んでくれると僕も嬉しくなるよ。……うん。やっぱりソフィアはそのまま、いつでも笑っていて欲しいな」
そしてお兄様はまた、私が恥ずかしがるようなセリフを言うのだ。
はあ〜〜〜……しぁわせぇ〜〜……♪
今日はもう、どんな辛い事が待ち受けてたって乗り越えられそうだわ……。
カイル生け贄作戦はもちろんソフィアちゃんなりの冗談です。
……時と場合により採用の余地があるとしても、真っ先に思い付いたカイル君の利用法がそれだとしても、現時点では間違いなく冗談ですので。あしからず。




