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以心伝心


 お兄様が災厄の魔物による後遺症で倒れた翌日。


 共に学院へと向かう馬車に揺られながら、私はお兄様を気遣っていた。


「お兄様。体調はもう大丈夫なのですか?」


「本当に大丈夫だよ。朝から何度も確認しただろう?」


 お兄様の手を撫でていたはずが、いつの間にかお兄様の手に包まれている不思議。


 これぞ至福。


 はあ〜いい。これいいわあ。

 お兄様に包まれた手を意味も無くもにゅもにゅと動かしただけで、お兄様が笑みを浮かべる。そしてお兄様からもにゅもにゅ返しがやってくる。


 私、これ知ってる。


 これ、世間では「イチャイチャしやがってバカップルが」とか言われるやつだ。


 はわぁ〜。バカップルさいこぉ〜……♪


 勝手にくねくねと身悶えそうになる身体をなんとか抑えつけながら、私はお兄様の愛の波動によって今にも千切れそうになっている理性の糸を必死に繋ぎ止めていた。



 ――お兄様を気遣う気持ちに、偽りはない。


 けれど今の私は断言出来る。


 ――ぶっちゃけこれは、「兄を気遣う妹」という状況を最大限(たの)しんでいるだけだ、と。



 幸せなんだもん。しょーがないよねっ☆


「お兄様はお母様に似て、平気な顔をするのがお得意ですからね。信用なんてしてあげませんっ」


 ぷいっ、とそっぽを向いて不機嫌さを表す。


 当然、言葉とは裏腹にお兄様の信用度なんて上限突破しているのは言うまでもない。

 お兄様もそれを理解していると確信しているからこそ、安心してこんな言葉も言えるのだ。


 言わばこれは、精神的なイチャつき。


 私のツーンはツンデレの前段階のツン。

 つまり、デレッとしたお兄様激ラブの愛情表現をしたいけれども、自分からそれをあからさまにして迫るのは少し品性に欠けるというか、恥ずかしいというか、できればお兄様の方から「甘えていいよ」って言って欲しいなー♪ という複雑な感情と欲望の入り交じった乙女的駆け引きなのである。


 もちろん私のお兄様はとても知的で気が利いてなおかつ空気を読んでノってくれる優しさを持ち合わせたパーフェクトブラザーなので、私の意思を的確に汲んで最高のツンデレを花開かせる舞台を用意してくれた。


「……それは困ったな。ソフィアの信頼を取り戻すにはどうしたらいいだろう? 僕に教えてくれないかな?」


 ――悲しそうな声。

 堪らずに振り向いたら、思ったよりも近くにお兄様の顔があって。その視線の強さに射竦(いすく)められた。

 揺るぎない瞳に見つめられながら、繋いでいた手に一瞬、力が加わる。


 その男らしい力強さが、まるで「信頼されるまで諦めない」と伝えてきているようで――。


 私の顔面はへにょってなった。


 いやいやいや、無理でしょこれ。絶対顔真っ赤になってるってぇ!


 即座にお兄様の胸に頭を突っ込んで隠したけれど、それでもへにょった顔面はどうにもならず、むしろ「隠せている」という事実からか私の口元はもうぐんにゃりというレベルでにやけていた。


 どうしよう。お兄様がイケメンすぎて世界がヤバい。世界の前に私がヤバい。とても人様には見せられない顔になってる。


 耳が心臓になったみたいにうるさいし、顔も熱くって、って手えぇぇ!! 手ぇにぎにぎしちゃらめえぇぇ!! もう恥ずかしさで死んじゃうのぉ!!


 でもそんなお茶目なトコも好きいぃぃぃいい!!


 身悶える代わりとばかり、いやいやをするようにお兄様の胸を頭でぐりんぐりんと押しまくっていたら「あはは、ごめんごめん」と楽しげに笑うお兄様に頭をぽふぽふされて、私は無事に昇天した。


 ――お兄様の撫で撫では、その、なんと言えばいいんでしょうかね。


 ――万物に遍く恵みを届ける陽光のようでもあり。

 ――慈しみに溢れた地母神の抱擁のようでもあり。

 ――また、暗き水底にて全てを受け容れる大海のようでもありまして。


 つまりは最高ってことですよね。


 お兄様さいこぉ……♪


 はわぁ。


「あれ、ソフィア、このまま寝ちゃうのかい? それならそれで構わないけれど、僕に何か聞きたいことがあったんじゃないのかい?」


 天国へと旅立っていた私の耳が、現世で一番愛おしい人の声を捉える。


 それは最近何かと面倒事が降り掛かる現実において、ほぼ唯一ともいえる、安らぎの(しるべ)となる声だった。


 ねえ、信じられる?

 私、今日はお兄様とお喋りだけで終わらせるつもりだったのに、お兄様ったら私が心の奥に隠してた「いつか聞ければいいなー」程度の悩みとも言えないような些細な気掛かりを敏感に察して、こうして手を差し伸べてくれちゃうんだよ?


 こんなの女の子なら誰だってキュンキュンしちゃうよね。


「……なら、もう察しているようなので、聞いちゃいますけど」


 お兄様に、私の心が筒抜けになっているこの感覚。


 とっても恥ずかしい。けど、同じくらいに嬉しい。


 私がお兄様を本当に愛しているんだって、言葉にしなくても伝わってると信じられるから。


「カイルたちがお兄様の指示で動いてるって、本当ですか?」


 なら私も、って。


 お兄様の考えてる事はなんだって知りたくなっちゃうの。……当然だよね?


ソフィア「ねーフェルぅ」

フェル「キュウ」

フェル「(って言ってたよ)」

ロランド「ふむふむ」


心が通じ合うってステキだね!

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