Another視点:その後の医務室
「ロランド様ーぁ! ご無事ですか!?」
「またこいつは……。あんま騒ぐなって」
「ようロランド、調子は……、!?」
「何その子かわいいいぃぃぃ!!」
「やあ、みんな。お見舞いありがとう」
「……ろ、ロランドにぬいぐるみを愛でる趣味があるとは知らなかったぜ」
「わあ! わああ! この子なに!? ロランドくんのペット? さ、触ってみてもいいかなあ?」
「ちょっと! ロランド様は病み上がりですのよ! それに、その……近すぎですわ!」
「いや誰かこの状況に疑問を持てよ。なにその人形と生き物。どっから連れてきたの?」
「あはは。実はさっき妹が来てね。僕が寂しくないようにって置いていったみたいなんだ。この子はマリー。こっちの子がエッテ。触るなら優しくしてあげてね」
「うんうんうん! ほらほらエッテちゃ〜ん、こっちにおいでー♪」
「へー、あの子が。相変わらず仲良さそうだな」
「ろ、ロランドが、あのロランドが、ぬいぐるみの名前呼んで……ッ! ぶはははは!! は、腹いてぇ」
「……わ、私にも触らせて……っもう! ちょっとあなた、うるさいですわよ! かわいらしいクマちゃんじゃありませんの、何をそんなに……あら?」
「ん、どした? ……へー。この人形、良い服着てるな。この生地って良いやつだろ?」
「エッテちゃーん♪ エッテちゃーん♪ わああ……この子すっごくかわいいねえ。すっごくお利口さんだねえ。ふふふっ♪」
「ロランドが、ロランドがぁっ。……ぬ、ぬいぐるみ抱きしめて、頭、撫でてっ、……! ひーっ、ひぃー!」
「このお洋服の紋章……。もしやこちらの子は『ステティル・リリー』の!? し、しかも『藍色』だなんて……ロランド様!!?」
「あれ、知ってるの? 詳しいんだね」
「え、これなんか凄いやつなの」
「あ、あのロランドがっ! 黒い笑顔と揶揄されまくってる腹黒が!! ぬいぐるみにはちょーいい笑顔とかっ、クラスのみんなに見せてやりてぇ!!」
「王族も愛用するぬいぐるみ界のトップブランドですわ。完全受注生産の為、予約は常に五年待ち以上。しかもこの『藍色』の紋章は、二十年前に引退された先代にしか使うことを許されていなかったはずなのに……新作だなんて」
「わああ……このうっとりした顔……手触り……。あたしダメになりそう……」
「姉の友人が伝手を持っていたみたいでね。特別に作って貰えたんだって自慢してたよ。ちなみに家にはもう一体、その子の姉妹が――」
「二体!? 『ステティル・リリー』の『藍色』が二体!? マジなんですの!!? ……ちょっと、あなたさっきから邪魔ですわ!」
「うげふっ! ……はー、笑い死にするかと思った」
「楽しそうでなによりだな。……それより、あいつがロランドの発言遮るのなんて初めてじゃないか? あの人形、そんなに凄いのか」
「人形じゃなくてぬいぐるみな。あれ俺の姉ちゃんも持ってるけどさ、触ろうとしたらすげー怒るんだぜ。きっとすげー高いと思う」
「へー、あんなのがねえ……。……? おい、あの人形、今動かなかったか?」
「だぁからぬいぐるみだっての。ぬいぐるみってのは布と綿でできてるから動かねーの」
「いやそのくらい俺だって知ってるが……あっ、ほら! 今俺の方見て笑ったろ!? おい見てたろ!? 今の!!」
「……ぬいぐるみってのはな、布と綿でできてるんだ。だから、笑ったりしないんだよ。お前は疲れてるんだ。もう休め」
「いやほんとだっての! 俺の事バカにしたみたいに眉の形が変わって!!」
「――あなたたち!! 先程からうるさいのですわ! 私とロランド様がゆっくりとお話できないじゃありませんの!! 邪魔をするなら帰って下さる!?」
「いや、あの」
「みんなー。静かにね」
「ほんとに見たんだって! おいロランド! その人形呪われてるぞ! 捨てた方がいいって!!」
「まあっ、なんてことを言うのかしら!? 物の価値が分からない男性というのはこれだから――」
「――お前たちッッ!!!」
「ひぃっ!」
「うおっ」
「きゃあ!?」
「わわっ」
「……ここが医務室だということを忘れてはいないか? 許可をしたのは見舞いまでだ。騒ぐのなら即刻出て行け」
「……ということらしいから、みんなごめんね。それと、お見舞いありがとう」
「えーっ、そんなあ!」
「あ、あなたのせいですわよ!?」
「いやその人形が! なんで誰も見てないんだよ!?」
「さ、騒ぐのやめようぜ? な? な?」
「はいはい、マリーもエッテも回収ね」
「あーん、エッテちゃーん」
「あっ、『藍色』の新作が……。……もっとよく見ておけばよかったですわ」
「おいロランド! その人形、まじでやばいからな!! 妹ちゃんの為にもすぐに処分するなことを勧める! これは親切心だからな! いいか!?」
「あなた、まだそんな世迷言を……っ!」
「まーまーまーまー、おふたりさん! 喧嘩はよそうぜ。ほら、続きは外で。な? な?」
「ロランドくん、またエッテちゃん見せてね! ……よっし、じゃあ二人とも、行くよ! おじゃましましたー!」
その後、医師が席を外した医務室にて。
「……マリー?」
「ボクたちの価値を認めようとしなかったからだよ。姉さんだったらもっと酷いことになってたよ?」
「キュイ、キューイ」




