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医務室にて


「単なる疲労ですね」


 お兄様を追いかけて辿り着いた医務室で聞いたお兄様の診断結果は、大事は無いというものだった。


「身体的には健康な様ですから、精神的なものでしょう。緊張を強いられる環境に長く身を置いていただとか、不安に苛まれる様な悩みがあっただとか、恐らくはそういった負担が積み重なって……こほん。失礼。妹さんにする話ではなかったかな」


 私の顔を見て言葉を途切れさせたお医者様に、かぶりを振って感謝を示す。


「いえ、家族だからこそ聞いておくべきだと思います。話してくれてありがとうございます」


「……君も背負い込み過ぎないようにね」


 私はどんな顔をしていたんだろうか? 普通に心配されてしまった。


 ダメだな、お兄様の事となるとどうにも取り繕うのが下手になる。

 お兄様が大切ならばこういった時にこそ冷静でなくてはならないのに。


 ……、……はあ。


 目を閉じて、鼓動の乱れを意識しながらゆっくりと深呼吸を繰り返す。


 長く吸って、細く吐く。

 鼓動を聞いて、次はもっと長く。少し息を止めたら、細く。細く……。


 ……ふう。


 だいぶ落ち着いたかなと自身の体調を確かめ、改めてお兄様へと身を寄せようとした時、ドタバタとした足音と共に医務室の扉が勢いよく開かれた。


「っ、っはあ、っはあ、っ、はぁ、っ、はぁぁあ……。メルク……、くっ、ふうぅ、はあ」


 完全に息が切れていらっしゃる。ゆっくり休んで?


 医務室に飛び込んできたのは、この寒い季節に一人暑そうに汗をかいているリチャード先生だった。死にそうなくらいにぜはぜは言ってる。


 正直なところ、かなりびっくりした。


 だってたったこれだけの時間差で私の居場所を突き止めたってことは、ずっと後を着いてきてたってことでしょ? 我ながらかなりのスピード出してたのによくついて来れたね。


 恐るべき脚力……。

 実はこの人も、剣から衝撃波を出せる側の人間なのかもしれない。流石は魔法を教えてる学院だけある。教師が軒並み優秀だ。


「リチャード先生、どうされました? 急患ですか?」


 そして血相を変えて駆け込んできたリチャード先生が当然のように勘違いされてるっていうね。


 どうしよう、お兄様は安静にしてれば大丈夫そうだし、この隙に逃げようかな。でも今から逃げるとなるとあからさまだし、もう授業も始まってる。先生から逃げてサボるのは流石に問題になりそうだ。


 っていうかリチャード先生に追いつかれるなんて思ってもみなかったから、ちょっと私、混乱してるね。いやホントすごいよ。


「キュウ! キューウッ!」


 おや? 私のずるっこした足に着いてきた努力を認めて素直にリチャード先生に連行されようかなーと思っていたら、私の膝の上に飛び移ってきたフェルから何やら合図が。


 なになに、腕をを下ろすのね? それで、アイテムボックスを……、え、でっかくするの? ここで?


 チラリと背後を(うかが)うと、大人二人はまだ忙しそうだった。というか、リチャード先生の息が整う気配がない。先生って意外と歳なのかな? だとしたら悪い事をしたかもしれない。


 なんにせよ、今なら見られる可能性はなさそうだ。


「このくらい?」


 フェルに指示されるまま、袖裏に固定していたアイテムボックスをお腹の前に移動させ、身体で隠しながら出入口を広げてみた。


 とはいえ、私の身体はそんなに大きくない。

 これ以上の大きさを要求されたらどうしようかな、という懸念を抱いたが無用の心配だったようで、大きくした出口から「キュイ!」という元気な鳴き声と共にエッテが登場。したかと思いきや、すぐにその頭は引っ込み。今度はおしり側からのっそりずぬぬーっとバックしながら出てきた。なにこれかわいすぎるんですけど。


 思わずにやけながら成り行きを見守っていると、エッテに引っ張られるようにして出てきたのは……家にいるはずのくまのぬいぐるみ、マリーだった。


「キュウッ! キュッ!」


「キュイキュイ!」


 フェルとエッテがお兄様の元へと移動すると、その後を追うようにしてマリーも私の膝から飛び移って……ってここで動かれたら困る!!

 慌てて抱き上げて、目的地っぽいお兄様の傍へと置き直した。


 ……今の、見られてないよね? ……大丈夫だよね? ちらちら。


 恐る恐る振り返れば、リチャード先生はお水を飲みつつ事情説明をしているようだった。よしセーフ。


 まだ慌てる時間じゃない。大丈夫だ、落ち着こう。


(マリー、どうして来たの?)


 とりあえずは対話だ対話。


 フェルと違ってマリーとは念話での意思疎通ができる。

 用済みとなったアイテムボックスを袖の中へと戻しつつ、こちらも事情の説明をお願いしたいと問いかけた。


 しかしその返事は、私が求めたものとは少しズレていて。


(エッテに呼ばれて、悪意を食べに来たんだよ?)


 要領を得ない答えに、私は首を傾げるのだった。


「っはあ!おい!メルクリスがっ、こちらに来なかったか!?」

「えっ!?あ、あっちの方に走って行きました、けど」

「助かる!」


教室に戻る途中のカイルから助言を得ていたリチャード先生でした。

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