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公認おサボり


 昼食を終えて、女神降臨による騒ぎにより魔境と化しているだろう教室に戻るのを億劫に思っていると、廊下の先からリチャード先生がやってきた。


「メルクリス、ここにいたか。女神様は今どちらにいらっしゃるんだ?」


 なんだか慌ただしいね。


「もう帰られましたよ」


 事実を述べると、今度はなにやら考え込む素振りに。


 なんだろうね? とカレンちゃんと首を傾げあっていると「……仕方ないか」という呟きが聞こえた。


「ならメルクリスだけ着いてきなさい。他の者は教室に戻っているように」


「えっ」


 どうしよう。教師公認でサボれるの、ちょっと嬉しい。


 なんて思っているうちに、リチャード先生はこちらの反応など気にせずにスタスタと歩き出してしまった。


 しかもやっぱりなにか急いでいるみたいで、その歩幅は大きく早い。このままでは置いていかれてしまう。


「えっと……そういうことみたいだから」


 また後で、と手を振ると、友人たちは手を振り返してくれた。


「またねっ」


「いってらっしゃい」


「ちゃんと大人しくしとくんだぞー」


 三者三様の見送りの言葉を聞きつつ、私は急いで先生を追いかけた。





 幸い、ここの廊下は長い。

 急げ急げと頑張って足を動かし続けた結果、なんとか曲がり角で見失う前にリチャード先生と無事に合流を果たすことが出来た。


 それでも一言くらいは文句も言いたくなる。


「先生、早すぎです。私との歩幅の違いを考えてください」


 不満も露わに抗議の声をあげるも、速度が緩まる気配は無し。


 しかし急ぐ理由だけは説明してくれた。


「悪いな。だが待たせている相手が相手だ。このままのペースで行かせてもらう」


 あれ、リチャード先生に詳しく報告するためにどこか近くの空き部屋にでも連れてかれてるもんだと思ってたけど、そういうわけではないらしい。


 相手って誰だろ。学院長とか?


 あんまり偉そうな人相手はやだなあとあれこれ考えていると、袖裏に隠したフェル&エッテ専用の移動用アイテムボックスからスルッと何かが出てくる感触がした。


「キュウキュウッ!」と鳴きながら二の腕を駆け上がり、襟元から顔を出したのは……フェル?


「なんだ?」


 鳴き声に反応してか、猛然とも呼ぶべきスピードで進んでいたリチャード先生の足が不意に止まる。


 けれど、私にはそんなことを気にしている余裕はなかった。


「どうしたの? 何があったの?」


 即座に壁際に寄り、左手に移動させたフェルの顔を真正面から見つめて、その意思を汲み取る体勢に入る。


 ……フェルたちには、学院では緊急時以外には勝手に顔を出さないようにと言いつけてある。そしてその約束が破られた事は今までに一度もない。


 つまり、今が緊急時だとフェルが判断した「何か」があるって事だ。


「メルクリス、その生き物はなんだ? いつの間にペットを連れ込んだんだ」


 うるさい。少し黙っていて欲しい。今は外野の声を気にしている暇はないかもしれないんだ。


 先生を無視して「いいから教えて」と頷けば、フェルはすぐに動きだした。


「キュウ! キュ……。キュウッ!」


 私が聞く体勢に入ってすぐ、フェルがいつものボディランゲージを始める。その意味するところは……。


 ――向こうで。倒れてる。急いで。


 ……これは。


「分かった。すぐに案内して!」


「キュウッ!」


 頼もしい返事と共に床を駆けていくフェル。

 私もすぐにその後を追おうとして――しかし、肩を強い力で掴まれて引き止められた。


「待て、どこへ行く気だ! お前は今から」


「向こうで誰かが倒れてるんです!!」


 手を振り払い、フェルの後を追う。その行動に迷いなんてなかった。


 移動速度は限界ギリギリ。

 人としての言い訳ができるレベルで全力で急ぎつつ、それと同時に魔力を展開。学院内全体を範囲に含み、特定の魔力を探査。――発見。


「待てっメルクリスっ!! お前には、陛下に――」


 先生を置き去りにして、さらにいくつもの魔法を展開。展開。展開。


 より詳細な状態把握。遠見。聞き耳。


 千里眼や順風耳といった超々距離の風景や音を把握する魔法の簡易版を使い、今の状況を完全に把握した。


「……ッ! やっぱり!!」


 多くの人でざわつくお昼休み終了間際の廊下。……その、階段付近。

 見覚えのある男子生徒に背負われてぐったりとしているのは、見間違うはずもない。私の敬愛するお兄様その人だった。


 気持ちが焦る。


 そもそも、フェルは私の用意したアイテムボックスを通って出てきたんだ。ならばフェルの知り得る「倒れた人」というのは、その出入口が繋がっている自宅の誰かかお兄様であるのは当然のこと。そんなのは分かりきっていたことで、でも!


「フェル! エッテはっ!?」


 癒しのエキスパート、エッテがお兄様の傍にいないのが気にかかる。


 エッテさえいれば、あらゆる怪我や病気は一瞬で治せるはずなのに……何故いないの?


「キュウッ!」


 元気よく答えてくれるフェルには悪いけど、なんて言ってるのかわからんっ!



 冷静になれと自分に言い聞かせながら、私はひたすらに走った。


 お兄様、すぐに行きますからっ!!


服の中をもぞもぞっと動かれるとふおおぉぉってなるうううう。

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