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アイリス視点:子育て


 窓の外に広がる空は雲一つなく澄み渡っていて、降り注ぐ陽光が眠気の残る目には眩しく映る。


 朝と比べ、眠気は幾分かはマシになったとはいえ、まだ本調子には程遠い。しかし悠長に休んでいる訳にもいかないのが悲しいところで……。


 今日もまた一日、気合を入れて頑張るしかないわね。


 と、すっかりやる気になっていたというのに。


 朝食前にちょっとした出来事を目撃したことで、なんだか気勢を削がれてしまった。


「全く、あの子は……」


 ソフィアとロランドを乗せた馬車が遠ざかるのを眺めながら、私は嘆息していた。


 悩みの種はもちろんソフィアのことだ。


 まさか昨日叱られた意趣返しの為だけに、未だ()せっている姉さんを利用しようとするなんて……呆れかえる他ない。


 昨夜に交わしたロランドとの対話についてなど、考えることは山積みだと言うのに。なんと気の抜ける話だろうか。


 あの子は頭も良く、やろうと思えばいくらでも要領よくできるはずなのに、相変わらず肝心な所で抜けているというか……。そこがかわいいところでもあるのだけど……。


 いつまで経っても、どこか子供っぽいのよね……。


「ふふ。文句は言いつつも、嬉しそうね?」


 ベッドから上半身を起こし、楽しそうに笑う姉さんの言葉を聞いて、思わず自分の顔に触れていた。


 ――嬉しそう? 私が?


 私の意外そうな様子がおかしかったのか、姉さんがくすくすと笑う。


 もう記憶の中でしか見られないと思っていた光景が確かに現実(ここ)にあるという事実を密かに噛み締めながら、私は昔を思い出しつつ、姉さんへと甘えるように会話を繋げた。


「そんな風に見える?」


「ええ。アイリスは前よりも、優しく笑うことが増えたわ。もうすっかりお母さんなのね」


 本心からそう思っていると伝わる優しい声音を受けて、なんともこそばゆい気持ちになった。


 幼い頃の私を知る姉さんに、そうしみじみと言われると、恥ずかしいのだけれど……。


 でも、嬉しい。


 私はちゃんと母親をやれているんだと姉さんに認められて、ここ最近感じていた胸のつかえが少し取れた気がした。


「でもソフィアには困ったものだわ。姉さんもあまりあの子を甘やかさないで頂戴」


 それでも、恥ずかしいものは恥ずかしい。

 なんだか子供扱いされているような気分を誤魔化すように話を逸らすも、そんな姿すらもおかしいみたいで、姉さんの笑い声はますます大きくなった。もう……っ!


「ふふふっ、ごめんなさいね。私はほら、ソフィアちゃんに大きな恩があるから。それに約束しちゃったからね。アイリスはちゃんと叱っておくわって」


「そんなものは無効ですっ」


 怒った振りをして、笑い合う。気付けば傍に控えるソワレさんも笑っていた。


 ……本当は、分かっている。この幸せな空間が、ソフィアのお陰だということを。


 なんならソフィアは、私が今日こうして姉さんと笑い合えるように、自ら悪役をかってでたということも……いえ、それは流石に考えすぎかしらね。


 ロランドの話を聞いて気が重くなっていた事は、あの子は知らないはずだし……。姉さんに話を持ちかけていたのだって、私と顔を合わす前だものね。


 朝の件は全くの偶然。

 そう結論を出したところで、姉さんが私の顔を注視していたことに気付いた。


「なに? どうかした?」


 普通に返事をしたつもりだったけれど、私の表情を見た姉さんは心配そうに顔を歪めた。


 ……鉄面皮、なんて言われていても、家族には隠せないのよね。


「何か心配事があるのでしょう? 力になれるかは分からないけれど、私に話してみない?」


 私を案じる姉さんの声。


 そうだ。昔もこうやって……姉さんに話を聞いてもらったっけ。


「それじゃあ、聞いてくれる?」


 私は懐かしい気持ちになりながら、姉さんの言葉に甘えることにした。





「アイリスは立派なお母さんね。でも、ロランドくんの言う事が正しいと私は思うわ」


 ソフィアのこと。ロランドのこと。

 昨夜の出来事を含め肝心な所だけをぼかして、私の育て方に問題は無かったのかと不安な気持ちを吐露すると、姉さんは意外にもロランドを支持した。


「本気? ロランドは許されないことをしたのよ?」


 信じられないと声を上げる私に、姉さんは首を横に振った。


「違うわ、彼は諌めたのよ。王が誤った道を進もうと言うのならそれを正すのが臣下の務め。でしょ?」


「でも……」


 納得がいかない、と顔に出ていたのだろう。


「守る事も大切だけれど、信じる事も必要よ。アイリスだってお父様にはよく反発していたじゃないの。子供は親の手から離れて行くものだわ」


 姉さんは何回も、私が納得するまで。


 あくまでも優しく、諭し続けてくれた。




 ――姉さんの言葉を聞いて、私なりに考えて。


 私は、私の子供たちを、もっと信じるべきなのかもしれないという結論に至った。


 その僅か数時間後。


「…………はあ」


 学院でソフィアがまた何かをしでかしたとの連絡が入り、私は本当に信じるだけで良いのだろうかと、再び頭を抱えることになるのだった。


仲睦まじく過ごす姉妹を見て、ソワレさんは感無量中。

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