光は闇に惨敗する
ちょっと張り切りすぎたかもしれない。
って、まあ私のせいじゃないんだけど……。
女神様が私の前に現れた当初の目的。それは神であるシンの解放である。
あの狂暴な神様入りのアイテムボックスは開封すると同時に破壊光線を振りまくという果てしなく迷惑な不具合があるので、唯一あのわからず屋に意見出来そうな女神様にその対処をお願いした結果。
なんか…………光と闇の戦いみたいな、思った以上に派手な光景が繰り広げられた。
つーか闇強すぎ。
思い込みは不幸な結果を生む。
それをよく理解している私は「きっとリンゼちゃんが話してるだろう」という決めつけを排し、女神様に改めて現在のシンの状況を伝え、その対処法を話し合った。
そして私から全てを聞き終えた女神様が用意したのがコレだ。
「入口の近くにこれを置いておけば何も問題はないわ」
手のひらに黒い球体を転がしながら、自信満々に語る女神様。
何故だろう。脳裏に「殺虫ダンゴ」という単語が浮かんでくるのは。
女神様が魔法で作り出した場面は見ていたから、ちゃんと効果のあるものなんだろうけど……完成品の見た目がしょぼすぎる。私には炭化したピンポン玉しか見えない。もうちょっとこう、バチバチッと謎の帯電してるとかさあ……。
魔力でよーく感知すれば、その小さな球体が内包した驚くような魔力量も把握できるんだけどねえ。
如何せん見た目とのギャップが酷い。
構成してる魔力に一切の無駄がなくて、私の魔力視でさえただの黒い玉にしか見えないってどんだけよ。リンゼちゃんが前に私の方が女神様より魔法が上手い的なことを言ってたけど嘘じゃん。女神様の魔力制御、完璧じゃん。自信なくすわ〜。
ともあれ、私も自分で魔法とか作る身としては、この謎の魔法の効果が気になる。
製作者が大丈夫って言ってるんなら、多分大丈夫でしょう。
「じゃあ出しますね」
机の上に無造作に置かれた黒い玉に向かって、神様入りのアイテムボックスを開く。……でも念の為、小さめのサイズで。
女神様、信じてるからね……信じてるからね!!?
と内心ドキドキしながら出入口を作るのと同時、予想通り白光が飛び出した。
「え、あれ?」
白光……そのはずだ。
それは間違いなく、光の奔流で全てを無に還そうと殺到している。そのはずなのに。
――机に置かれた黒い玉は、光を受け止め微動だにしない。
それはまるで、黒い玉に光る棒が突き立っている、静止画の様だった。
「もっと大きく開いて」
「こ、こうですか」
呆ける私に指示が飛ぶ。
慌てて言われた通りに、出入口のサイズを拳大にまで大きくした。
広げたサイズに合わせて光も太くなったが、黒い玉に影響はない。というか、太さを変えて初めて気付いたが、これ光が自ら黒い玉に向かっていってるみたいだ。太い光が黒い玉の一点に収束して、そこで消失している。
なんだこれは??
「もっと、こう!」
目の前で起こっている現象に混乱している間に、女神様がとんでもない行動を始めていた。
私の部屋の天井の一部を塵も残さず消し飛ばした破壊光線に、なんと自ら手を突き入れ、アイテムボックスの入口をその両手でもって無理やり押し開いたのだ!!
ぐいっ! と効果音が聞こえそうな勢いで径を広げられれば当然ながら光も太さを増し、しかしそれらは変わらず黒い玉に吸い込まれる。
初めは光の筋だったものがいまや光る円錐になり、光の圧力は増したというのに、けれど何にも被害を及ぼせてはいない。
光の中から引き抜かれた女神様も当然の様に無傷。両手も未だ健在だ。女神すげえ。
などと思った次の瞬間には、溢れ出す光が途絶えていた。
そして黒い玉のあった場所に転がる、黒いガムテープっぽいもので全身ぐるぐる巻きに梱包されている人間大のなにか。
ピクリとも動いてないのが逆に怖い。
……まさに一瞬の出来事だったが、私は見ていた。見てしまっていた。
どれだけの光を受けてもピクリともしなかった黒い玉が突然黒い帯を幾条も伸ばして光に喰いつくと、その中に潜んでいた人を一瞬で雁字搦めにしてしまった決定的な場面を。
……これ、シン、だよね? 神様なんだよね?
探しに来たにしては扱い酷くね? とあまりの容赦のなさになんとも言えない感想を抱いている内に、女神様は現れた時と同様のアイテムボックスに酷似した黒い渦を作り、その中にポイっと黒いミイラ放り込んだ。
次いで女神様自身も渦に入り、その全身が見えなくなると、すぐに渦も収縮して消えてしまった。
「それじゃあ、またね」
後に残されたのは、その一言のみ。
誰も声を掛ける暇さえない。実に鮮やかな手際だった。
「……なんだか、ソフィアみたいな人だったね」
時が止まったように静まり返っていた空気が、カレンちゃんの一言で息を吹き返す。
……本当に。
カレンちゃんの言う通り、まるで嵐みたいな……、…………?
あれ。
え、ちょっと待って。カレンちゃん今「私みたいな」って言った? 女神様が私みたいって?
あれ?
神様の出番、顔も見せずに終了。




