覚悟を決めます!
どうしよう。心の友を見つけてしまったかもしれない。
この女神様びっくりするくらい話が合うわ。
女神様と私の女子トークは話題を二転三転しつつ、何故か現在は「幼少期のカイルが如何に可愛かったか」を私が語り聞かせる会へと変貌していた。
ミュラーが呆れてる? カイルがちょこちょこ「やめろ」ってサイン出してる? 関係ないね!!
カレンちゃんが密かに興味津々な以上、数の利はこちらにある! なにより、偉大なる女神様がこの話を望まれている!!
ならば私は、語るしかないじゃあないかっ!!!
幼かった頃のカイルがどれだけ生意気だったか。どれだけ素直で、どれだけ単純で、どれだけ可愛らしかったのか。
現在のカイルと見比べつつ、当時を想像しながらお楽しみください。
――ってな感じで、女神様と共謀してカイルで楽しく盛り上がっていたら、表面上は「やだなぁもうハハハ」なんて爽やか風に対応していたカイルがついに実力行使に出た。
さりげなく私の肩に手を置き、あくまで笑顔は浮かべたままで、そっと耳元に口を寄せてきて……。
「早く用事とやらを済ませろよ……!」
はい、恫喝されました。
照れ隠しやらなにやら、様々な情念が込められためっちゃ低い声でした。やだこわーい。
ていうか、肩……結構ちから入れてるね? 女の子の肩を掴むちからじゃないね? あまつさえグリグリと追加ダメージを狙ってもいるね?
だが残念だったな、私に物理は効かないんだ! ふはは!
女神様の前だからっていい子ぶってるカイルに負けるような私ではないのだ! 無駄な抵抗が心地良いわー!
……と、ちょっとネムちゃん風に勝ち誇ってみたところで、私もだいぶ満足した。
うん。女神様も充分楽しんだみたいだし。
どうやらカイルの我慢もそろそろ限界っぽいので、この辺で勘弁しておいてあげよう。
それにカレンちゃんとミュラーも、わざわざ口には出しては言わないけど、女神様と同じ空間にいるのに気を張りすぎたのか大分疲れてきてるみたいだからね。
二人ともカイルの幼少期の話には興味津々だったから案外自分では疲れてることに気付いていないかもしれない。
これは休憩が必要そうな……というか、思ったよりも話し込んじゃったせいでお昼休みも既に半分が過ぎ去っている。このままではお昼抜きが確定してしまう。それは嫌だ!
「――よしっ! じゃあそろそろ用件を済ませちゃおうか」
パンッと手を叩き、雑談を終わらせた。
カイルの恥ずかしい暴露話はいつでもできる。
しかし、お昼ご飯はお昼休憩にしか食べることは出来ないのだ!
……万が一にでも教室でお腹がなったりなんかしたら恥ずかしすぎるからね!!
「ええ。それは構わないけれど……ここでいいの?」
幸い女神様は聞き分けが良い。
これならお昼は無事に食べられそうだと安堵しつつ、次の懸念へと頭を切り替えた。
……ここでシンの身柄を引き渡すということは、みんなにアイテムボックスの魔法をバラすということだ。
私を心配して着いてきてくれたみんな。
実はお兄様から頼まれていたという、言わばお兄様の代理人。お兄様からの気配りの象徴。
つまりみんなに守られているという今の状況はお兄様に守られているに等しい。
……しかしお兄様本人ではないので、みんなはアイテムボックスの存在を知らない。
――みんなに、知られる。
それは「できる限り知られないように」というお母様との約束を破ることであり、私がみんなとは違うのだということを知られる事でもある。
……正直、怖い。
それでも、私は。
いや、……私が。
私が逃げるわけにはいかない。
たとえそのせいで、友達であり続けることができなくなるとしても。
私が先に、離れる理由には、ならない。
「はい。みんなが見ている前で、やります」
だから、女神様に力強く宣誓した。
あーそれにしてもこーゆーの久々でちょーぉドキドキするーぅ! 私シリアスって苦手! 早く「ソフィアって凄いね!」とか言ってもらって安心したい!
みんなとだってもう浅くはない付き合いだ。今更とんでも魔法のひとつやふたつ見せたところで怖がられないとは思う。思うけども、それは絶対じゃない。
カイルは多分大丈夫だと思うけど……怖がられた時に一番ダメージがでかそうなのもカイルだ。
十中八九「ああ、それで?」みたいな反応するだろうけど、万が一億が一にでもガチで引かれたら、数日は寝込むかもしれない。乙女のハートは繊細なので。
カレンちゃんだってミュラーだって、信じてはいるけど、絶対とは……。うううう〜〜!!
ええいっ、女は度胸! うじうじしてても何も変わらんッッ!!
どうせならすっごいのを見せてやる!! 覚悟しろォ!!
(思いっきり押してやったのに顔色ひとつ変えねーとか、こいつやっぱおかしいだろ)
ソフィアの異常さなんて本人以外みんな知ってる。




