おねショタ、いいですよね
女神様と軽くお喋りしている内に、いくつか判明したことがある。
ひとつ。女神様は前世ではあまり友達がいなかったらしいこと。
ふたつ。その為か友達という存在に対して憧れに近い感情があること。
みっつ。シンの件は案外優先度が低そうなこと。
よっつ。そしてカイルが、美人に弱そうなことである。
ウケるよ? 女神様がカイルに微笑みを向けるだけで、カイルったら明らかにソワソワしだすんだもの。本人はバレてないつもりなのか澄まし顔なのがまた笑いを誘う。平静を装いたいならまずは瞬きの回数を制御しようね。
もちろん私は、そんなカイルを露骨に観察なんてしていない。
ではどうやってカイルの行動を把握しているのかというと、魔力による知覚で把握している。薄ーく広げた魔力を対象者の周りに溶け込ませることで、あらゆる情報がとてもお手軽に収集できるのだ。
千里眼タイプの視覚にしか対応しない魔法よりも遥かに優れた最近のお気に入り魔法。魔法感知を初めとしたスペシャルな機能が諸々詰め込まれた超高性能監視カメラ、とでも言えばこの便利さが伝わるだろうか。
例えばー……今はちょっと重点的にカイルの様子を収集してるんだけどさ。さっきから地味に身体から放出される魔力の量に揺らぎが感じられるんだよね。
これ、動揺のサインね。
で、鼓動を聞いてみるじゃん? 脈拍が少し早いのが確認できるじゃん? 次は頭皮の発汗量でも見てみる? 冬なのに妙に汗かいてるよねー? なんでかなあー不思議だなあー。
なんて、ありとあらゆる情報を相手に気付かれることなく収集できる素敵魔法があるので、私は覗き見も盗み聞きもし放題なのです。どや。
もちろん普段はこんな変態じみた情報収集はしていない。
今はほら、さっきまで女神様をこの魔法で警戒してたから、そのついでっていうかね。女神様相手にしてるカイル面白いなあって気付いちゃったから、少し確かめてみただけというかね。
……カイルってば、女神様相手でも怖気付いたりしないんだ。
意外と度胸があるのかな……?
なんて幻想を粉微塵に吹き飛ばしてくれる現実が見たかったんです。はい。
まあ? 女神様は美人だし? 見栄を張るくらいは男子として当然の反応なんだろうけどね。
それでなくても、この部屋っていまカイル以外は女子ばっかだし。
カイルのハーレム状態のこの状況でリラックスなんてされてたら、隣に座ってる女子として、それはそれはムカついただろうからね。緊張してたけどカッコつけてたってのは、まあ、妥当なんじゃないでしょーか。
………………チラリ。
……今もいかにもまじめそーな顔をして女神様の話聞いてるけど、その実、内心では緊張してると思うと……思うと……。
ん〜っ、弄りたくなるねっ!
「カイルさんって、なんだか可愛らしいですね」
嗜虐心が溢れたわけではない。これは女神様の声だ。
私の心の代弁者かと驚く他ないが、女神ともなると魔法に頼らずに人の心を読めたりするのだろうか。だとしたら「わたし女神様だから空気読めな〜い」な風を装って是非カイルの内心を暴露して欲しい。きっと楽しいことになると思う。
今でもそこそこ楽しいけどね!
「はっ……えっ、いやいや。か、可愛いとかそんな……。…………あ、ありがとう、ございます……?」
その反応は間違いなく「かわいい」だと思うよ、カイル。
顔中真っ赤にしちゃって、マジで照れてるじゃんカイルってば! あとその、口元を手の甲で隠すの、それ少女マンガでよく見るヤツ!! リアルにやってるの初めて見たわ! 破壊力高いね!?
はー、眼福だわ。カイルは顔だけは良いからなー。カイルの背後に一瞬、薔薇の幻影が見えたよ。頭の中に「新規スチルを獲得しました」ってアナウンスが流れそうだったもんね。
完全にテンパったカイルを堪能していたら、ふと視線を感じて……顔を向けた先で、女神様と視線が交錯した。
なんとなく、自分の体で隠すようにしながら、そっと親指を立ててみる。それを見た女神様が、にっこりと微笑みを返してくる。
――おねショタ、いいですよね。
何かが通じ合った気がした。
勘違いかもしれないけど、でも……と思っているうちに、女神様はまたカイルの相手を始めていた。
「ごめんなさい。男の子に可愛いは褒め言葉ではなかったですね」
「いえ……」
本心で謝っているようにも見える。けれど、年下の男の子をからかって遊んでいるようにも見える。
私の経験の浅い目では、女神様の真意は見抜けない。
それでも、これからも女神様との交流を持ち続ければ。
カイルが今まで私たちに見せたことのない、色んな顔を。私だけでは引き出せなかった様々な表情を、見せてくれるようになる。
そんな予感がした。
カイルの天敵が増えた。




