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友達の輪


「落ち着いたか?」


 カイルに掴まれていた腕をやんわりと振り解いてから、自分の状態を確認する。


 脈拍、正常。


 呼吸、正常。


 女神様のスケールダウンしつつもまだまだでっかい胸を見ても、もう削ぎ落としてやろうかなどという危険な発想は浮かばなかった。


 ……邪魔ならもっと減らせばいいのに、とは思うけど。


「……まあ、少しは」


「あれで少しかよ」


 え、なに? 別に興奮して女神様に襲いかかったとかじゃないよ。ホントだよ。


 ただちょっと自分の世界にのめり込みすぎちゃってて、人の話を聞ける状態じゃなかっただけだよ。


「お前、相手が女神でもいつも通りなのな」


 女神様の前でも口の減らないカイルに助けてもらうまでもなく、そのうち自力で復活したとは思うけどね。


「女神様相手に鼻の下伸ばせるカイルには負けるよ」


「それだけ言えれば大丈夫そうだな」


 キンと合わせた切先は口論になる前に(かわ)されてしまった。


 そーゆーことされると私が子どもっぽく感じるのでやめて欲しい。


「仲がいいのね。その子がカイルくん?」


「!?」


 なんでカイルのこと知ってるのこの人! リンゼちゃんったら普段女神様と何話してんの!?


 プライベートな空間と思って、部屋でカイルのことを話したりはする。するけど……ッ!


 私どんなこと話したっけ?

 覚えてないけど、ここで暴露されると困る気がする!!


「カイルのことはいいので、シンの話をしましょう」


 目的は速やかに達成すべし。これ、常識ね。


 今まではちょっと、色々と余分なものが目に入ったりして話が脱線したりもしたけど、本来の目的はこれだからね。


 ……まあこの話を中々切り出せなかった理由も、未だこの部屋に健在なんだけども。


「……そういうわけで、これからちょっと秘密の話をするから、みんなは一回退室してくれる?」


 アイテムボックスの魔法とか。神とか。破壊光線とか。


 ここから先は、みんながいると落ち着いてできない話のオンパレードなのだ。


 ……だというのに。


「お断りするわ」


 雰囲気から察してはいたけど、まずはミュラーが力強く拒否を示した。


「俺も残るぞ」


 続くカイルも足を組み直して、まだまだ居座る態度を誇示し。


「……ダメ?」


 最後にカレンちゃんが、縋るように私を見上げた。


 カレンちゃんだけ許可したい。


 っていやいや、それはダメでしょ。正当な理由がない。いや可愛いは正当な理由になり得るけど、他の二人が納得しないことは想像に難くない。


 私は心を鬼にしてカレンちゃんの誘惑を振り払った。


「ごめんね。でもこればっかりは……」


「それがロランドさんからのお願いでもか?」


 聞き捨てならない言葉に真顔で振り返る。


 カイル、最近お兄様の名前出すことが増えたけど、いつどこで会ってるんだ? やっぱり放課後? それとも朝か?


 いや、今気にするべきはそこじゃない。


「……本当に、お兄様が?」


 お兄様が、みんなに着いてくるよう言っていた?

 それってつまり、お兄様は私が女神様と会うこの事態が学院で起こる事を想定していて、私の身を心配してあらかじめみんなに頼んでおいたってこと? 何その驚異的な未来予測。天才かな、ってお兄様は天才でした。流石は私のお兄様!!


「本当も何も、私達は神殿騎士団(テンプルナイツ)よ? ソフィアを守るのは当たり前じゃない」


 お兄様の素晴らしさを噛み締めていると、ミュラーから聞き馴染みの無い言葉が放たれた。


 テンプル……なにそれ? 遂にネムちゃんの中二病が感染しちゃったのかな? やはり最初の犠牲者はミュラーだったか……早く治るといいね。

 カレンちゃんが「シーっ!」ってやってる姿にとても癒されます。


 あのね、カレンちゃん。悲しいけど、その病気はその程度の気持ちじゃ抑え込めないものなんだ。


 時間だけがその病の特効薬。

 ある日突然夢から覚めて、そして今までの自分を恥じる。そうして人は大人になっていくんだよ。なむなむ。


「……あなた達、本当に楽しそうでいいわね。羨ましいわ」


 なんて内輪でやいのやいのやってたら、放置気味になってた女神様が私たちを見て目を細めてた。


 ……そのどこか寂しそうな瞳を見て、ふと気が付いたんだけど。

 もしかして女神様って、悪戯好きとかそれ以前に、ものすっごく人に飢えてるだけだったりする? ひょっとしなくても寂しがり屋さん?


 ……そういえば前にリンゼちゃんが「ずっと二人きりだったから」的なことを言ってた様な気も……するね?


 そう考えて見れば女神様の微笑みも、人との久しぶりの交流を純粋に楽しんでいるようにも見えてきた。


 ……私なら。


「あの」


 聖女という立場を持つ私なら、彼女に手を差し伸べられるんじゃないか。


 そう思った時には、既に言葉が零れていた。


「女神様さえ良ければ、一緒にお喋りとかしませんか?」


 見開かれた瞳。


 意外と感情豊かな女神様は、その言葉の意味を理解するとふっと表情を綻ばせて。


「それはとても楽しそうね」


 見る者全てを魅了する、極上の笑みを浮かべたのだった。


中二病は止まらない。

ゆっくりと、しかし確実にその勢力を増してゆくのだ……。

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