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女神様と、友達と


 人目につかない場所が必要ということで、リチャード先生の研究室を貸してもらえることになった。


 ぎりぎりお昼休み前という時間帯が幸いしたのだろう。廊下に人影はなく、私達はスムーズに進むことが出来た。


 こんな目立つ人を連れて休み時間に移動だなんてどれだけの騒ぎになるか分かったもんじゃない。

 誰とも会わずに目的地へと辿り着けたのは、僥倖と言う他なかった。



 そしてその間、肝心の女神様は――。


「学校にしては個室が多いですね。寮……いえ、部室棟ですか?」


 学院という建物に興味津々だった。


 いや分かるけどね。

 私も当初は「学校じゃなくて学院!? 学院物語始まっちゃう!?」とよく分からない興奮に包まれたものだ。


 ちなみに学校と学院と学園の違いは未だによく理解出来てない。


 しばらく通った経験から推察すると、校庭から校舎に取り付けられた時計が見えるのが学校。病院みたいな個室の並んだ棟が存在するのが学院。学び舎内に花園があるのが学園じゃないかと思う。合ってない自信しかない。


「この辺りは研究棟と呼ばれています。教職員用に用意された個室ですね」


 まあ呼び方なんてどうでもいいんだ。


 リンゼちゃんの言っていた通り、女神様は前世の「学校」を知る同郷の女の子。その事実が、私にとっては一番大きい。学校という言葉のあまりの懐かしさに、油断したらうるっと来ちゃいそうだった。


 ……いや、()()()()()と言うには、その、女神様はちょっと大人びすぎているというか、美人すぎるというか。

「同じ世界から来た女の子」とカテゴライズするには前世の私との格差が激しすぎて申し訳ない気持ちになるんだけど。


 女神様って前の世界ではアイドルとかだったりしたのかな?

 日本人顔でありながら超絶美人でプロポーションも抜群とか、久々に猛烈な劣等感を禁じ得ないんですが。


 ……たとえ前世の私が、外見スペックで完膚なきまでに完全敗北していようとも。今の私なら。お人形さんのように可愛いと自他ともに認めるソフィアの姿ならまだ、将来並べる可能性があるから……ッ! だから悔しくなんてないもんね!! くぅっ!

 って感じになる。


 でも現時点では逆立ちしても勝てないことは明白なので、是非とも女神様にはお兄様に出会うことなくお帰り願いたい。いやほんと、これだけはまじで。


 あからさまなほど胸元を晒したその服にその爆乳の組み合わせは、女神とか関係なく全ての男を従わせられると思う。

 なんなら女でも気圧されるし。いっそもげろ。


「ふうん。研究……へえ……」


 なーんて私が勝手に危険視していることなんて気にもしないで、女神様の方は何やら興味深げに扉が並んでいるだけの面白味のない廊下を見回している。


 ふわふわと、床から一定の距離を保って浮遊しながら進むその姿は、まるで彼女だけが水中に存在しているかのように錯覚させる。何度も通ったことのあるただの廊下が、まるで幻想の世界にでもなったかと思わせる不可思議な光景だ。


「……空中では威力を殺される。確実に斬るか、まずは地に落としてから……ぶつぶつ」


 で、さっきからそんな幻想の生き物である女神様を倒す算段をしているミュラーさんは一体なんなんでしょうね。神殺しの称号でも欲しいんですかね。倒すんなら是非シンの方でお願いしたい。もちろん女神様のご不興を買うような懸念は全て払拭した後でね?


 っていうかそもそも、この三人はなんで着いてきてるの?


 教室に女神様がやってきたという天災の中で唯一とも言える良かった点。それがネムちゃんの欠席だというのに、みんなが着いてくるんじゃ全く意味が無い。


 正直この三人よりもネムちゃん一人がいる方が大変そうだとは思うけど、それはそれ。


 折角リチャード先生に部屋を借りたのに、アイテムボックスを知らない人がいてはシンを解放できない。解放する時の危険性を考えて、遠くの野外に空間移動(ワープ)することも出来ない。


 行動が著しく制限されて、とても困る。


「ねえ、この人は私に話があるみたいだから、みんなは戻ってていいんだよ? お昼ご飯食べてきたら?」


 だからそれとなーく帰そうとしてるんだけど、聞いちゃくれない。


「ぜってーついてく」


「大丈夫だよ。ほら、お弁当も持ってきたから……」


「女神と手合わせできる機会なんて見逃せるものですか!」


 ミュラーがおかしい。いや、カイルもカレンちゃんもそこそこおかしいが。


 でも正直お弁当があるのはとても嬉しい。

 私のアイテムボックス内には食べ物はお菓子とパンくらいしかないので、実はちょっぴり食いっぱぐれる覚悟をしていた私としてはカレンちゃんが天使に見える。元々天使だったけど、最近はちょっとバーサーカー寄りだったので。


「まあ、いいならいいけど」


 誰も戻る気は無い、か。


 私はそんなに頼りなく見えるんだろうか。それとも、女神様への好奇心かな?


 どちらにしろ、少なからず心配されていることは確かなようで、私の頬はにんまりと緩んだ。


 友達っていいよね。


無防備な女神様を視界に収めながら、そわそわと剣を気にする少女が一人。

神をも恐れぬその所業。

類は友を呼ぶって本当ですね。

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