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愚痴くらい気持ちよく言わせて欲しい


 ――私は語った。


 悪辣なお母様が如何にして善良で健気な私を罠にはめ、理不尽な言葉の暴力によって心を折りに来たのかを。


 異例の長時間にも及ぶお説教。休憩時間もなし。もはや精神的な拷問とでも呼ぶべき所業。


 体力の限界を迎えた私が眠気のせいで満足な抵抗もできないのをいいことに、これ幸いと容赦なく行われた尋問の数々。


 一体どれだけの時間を精神的苦痛の中で過ごしたか。私がどれほど傷付いたか。

 それらの事実をひたすらに語った。


 その反応がこちら。


「それいつもお前が俺にやってる事じゃん」


 カイルは脳に重大な欠陥でも抱えてるんじゃないかと思う。


 人の話を聞いていましたか? 言葉、通じていますか?

 私はカイルを尋問したことなんて、……、………………いや、確かにあったかもしれないけど。


 こ、言葉の暴力とか、罠にはめたりなんかしたこと……したこともあったかもしれないけどっ!


 眠いのを邪魔したことはない! はず! たぶん!


 だから私とお母様は違うっ! ……と言いたいところだったけど、よくよく考えてみれば、まあ近い部分も無きにしも(あら)ずというか。そういう見方もできるかもしれないなとは思った。


 カイルに指摘されるまで全然気付かなかったけど、私とお母様って似てるのかもね。


 相手が状況を把握する前に威圧的に迫り、思わず従ってしまうような環境を用意する。

 反抗の機先を制し、相手の心に「反抗は無駄だ」と植え付けて気持ちを萎縮させ、有利な立場を確立する。


 なるほど、確かに私がお母様にやられたことで、なおかつ私がカイルにやったことのある手法だった。カイルにはもう大して効かないやつだから忘れてたね。


 でもさあ、お願いだから空気読んでよ。

 今は正論とか求めてる場面じゃなかったでしょ? なんで反論してくんのよ。そんなんだからエロい先輩にしか相手にされないんだよバカイル。


 愚痴を零すってのは心が弱ってる証拠なんだから素直に「うんうんそーだね」とでも頷いておきなさいよ。なんで傷口に塩塗ってくるの。普段の仕返しか。私をやり込めて満足したかこんにゃろう。


 もー……せっかくカイルの愚痴も聞いてあげようと思ってたのに。


 やっぱカイルはダメだな。優しさが足りない。


「カイルはもっと私に優しくするべきだと思う」


 ずびしとカイルの問題点を指摘してやった。


 ていうか、私カイルの幼馴染みよ? 自分で言うのもなんだけど、中々の美少女よ?

 頭も器量も家柄も良くて魔法も優秀で料理も上手と良いトコしかない超絶優良物件と学院で噂のソフィアさんですよ?


 同世代で雑な扱いしてくる男子とかカイルだけなんだけど、その辺どう思ってんの? 自分が恵まれてるって理解してる? 理解するくらいの脳みそはここに詰まってますかぁ? んんー? とばかりに指でおでこをツンツク押してやったら、ものすっごい鼻で笑われた。心の中で言った自画自賛を笑い飛ばされたようでムカつく。


「優しくなんてしたらお前絶対つけ上がるじゃん」


 つけ上がるとはなにか。優しくされたら素直に喜ぶのが礼儀なんだよ。つけ上がってなんかないやい。


「そーゆーのは実際に優しくしてから言って欲しいものだね」


 とりあえず根拠の無い言葉に反論しておく。


 優しくしたらってあんた、カイルが私に優しくしてくれた記憶なんか一個もないんだけど?


 カイルは一体なにを根拠にそんなこと言うのかね。もしかして妄想かな。カイルの中にいる想像上のソフィアちゃんはそんな態度をとるのかな。

 空想の私を作り出すほど私の事を考えてるなんてどれだけ恥ずかしい奴なんだ。私でエロい想像とかしてたら承知しないぞ。


 ……なんか、こんなこと考えてる私の方がエロい気がしてきたな。


 照れ隠しもあって「こんな変なこと考えちゃったのも全部カイルが悪い!」ととりあえずカイルを睨み付けていたら、何故だかその顔を見たカイルにおっきな溜め息を吐かれた。なんなのもう、失礼すぎる。


「……お前……本当にお前、もう……。……はあ。……あの人達でもソフィアの躾には苦労するんだな……」


 なんか酷いこと言われてる気がする。

 確実に酷いこと言われてる気がするのに、明言されていないせいで文句も言えない。


 文句を言った瞬間に「なに、そんなこと言われる心当たりでもあんの?」とか言われたら返す言葉がない。

 カイルは最近こーゆー小細工ばっかり上手くなって本当に手に負えない。まったくもーどこでこんな言い回しを覚えてくるんだか……!


「〜〜もうっ、いいから、はい次! 次はカイルが愚痴を聞かせる番!」


「はあ?」


 何言ってんだこいつは? なんて顔をされたって知らん。


「私が話したんだからカイルも話す。当然でしょ?」


 だから話せ。さあ話せ。いま話せ。


 カイルが私をオカズに……なんてうっかりしちゃった想像を吹き飛ばすような面白い話を、さあさあさあさあ!!


何度もしつこいようだが、カイルの言い争いの技術は全てソフィアの模倣である。

鬱陶しいのも、生意気なのも、小賢しいのも。

全て、すべからく、まるっと、全部が、ソフィアの模倣である。

ソフィアがその事実に気付くのはいつになるやら……。

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