言いたくない?あっ、そう。なら聞け
カイルがまた何か隠してそうな雰囲気だったけど、話してるうちになんかどーでもよくなってきた。
話してるだけでだいぶ気が紛れたっていうか、無理に聞き出すのも悪いかなと思い直したというか、そんな話よりも私の愚痴を聞けー! みたいな。
カイルにしてみたら、どうも私の悩みは悩みとも呼べない程度の大したこと無い問題らしいですしー? ならそんな話を聞くのも苦痛になるはずがないよねー。よーし語っちゃうぞー。
というわけで、急遽方針を転換して、私の直近の悩みを披露してあげることにした。
面倒そうにしつつも逃げる気配のないカイルに向き直る。
悩みってのは一人で抱え込んでもろくな事にならないからね。愚痴を吐き出すだけでも気分がスッキリしたりするもんだ。あとは寝るのでもいいね。
私は嫌な事は寝て忘れちゃう派だけど、それはそれとして愚痴を零すのも健全なストレス発散方法だと思っている。他には甘いものを食べて幸せな気分に塗り替えるのもとても良いね。
つまりやれることはなんでもやって悪い気分などさっさとご退場願おうという理念の元に行動していると言っていい。
その理念からすれば、今のカイルはさっさと解決したい悩みを抱える同類とも呼べる存在。……絶好の愚痴仲間だ!
仲間だと思った途端になんだか疲弊してそうに見えてきたカイルにとりあえず「私も苦労してるから、分かるよ」的な笑みを向けてみると、何やらビクッと警戒された。
微笑みかけただけでその反応するのやめてね。
まあいい。逃げ出さなければ問題ない。
私の話を聞いてもらうのに支障がなければいいんだ。
「カイルが悩みを話さないなら私が話すよ」
まずはカイルに、私も悩みを持つ仲間なんだと認識して貰わねばなるまい。
いや別に、必須事項ってわけでもないんだけど。
私が欲しいのは愚痴仲間であって、嫌々聞いてる相手にネガティブ吹き込みたいわけではないからね。
「……は? いや、なんでそうなるんだ?」
でもちょっと話の流れが唐突だったかもしれない。カイルはより警戒を深めた。相変わらず失礼な奴だ。
話してくれないから私が先に話す。これって普通のことだと思うんだけどな。
それに、「なんで」だって?
そんなの「お母様が酷いんだ!」ってことを誰かと共有したいからに決まってるじゃないか! それ以外に何がある!
残念ながら、お母様と私の間では覆しがたい上下関係が確立されている。それは認めよう。私が下だ。認めよう。それで不満もなかった。今までは。
でも昨日のはやっぱりどう考えても酷いって! 証拠不十分のくせして私を犯人に仕立てあげて! しかもそれを利用して私の揚げ足を取るような真似までして!
これは正に悪魔の所業!! 王様の言っていたことは真実だったんだー!
ってなるよね。冷静になればなるほどそう思うの。
だってお母様、私が犯人じゃないって分かった上で、あと私が怒鳴られたりするの嫌いだって知った上であんなことしてきたんだよ? 確信犯だよ。悪の権化だね。正義の味方に成敗されちゃえばいいと思う。
つまりこれらをまとめるとこうなる。
「私も愚痴を言いたい気分になってきたから」
お母様のことは許したはずって? あの時はあの時、その時はその時。乙女の心は移り気なのよ。
それにこれ復讐とかと違うし。ちょっと不満を共有したいだけだし。そのくらいは誰にでもあるよね。うん、ふつーだよふつー。わたしわるくない。
私はソフィア。
特別優秀に生まれ変わる前は「面倒臭い性格」と友人に揶揄されていた程度には根に持つ女。
相手はお母様? 争いは悲しみしか生まない? 知ったことか。
王様の耳はロバの耳ー!! と穴に叫んだ青年だって、とてもスッキリした顔をしていたではないか。そういう人間に、私はなりたい。
私は我慢しない。またいつ死んでも後悔しない生き方をしようと決めたんだ。
だから私は、お母様の悪口を誰かに言いたい!!!
そう思う気持ちを誰に止められようか。いいや誰にも止められまい。だって学院にお母様はいないから! だから誰にも止められない!!
大丈夫、カイルの弱みはいっぱい握ってるから口封じも万全だし、今度は遮音も忘れない。この悪口がお母様の耳に入ることは無い。だから思う存分話すことが出来る。
外では完璧超人のお母様が、家ではどんなに可愛いか。間が抜けてるか。
そして私に対するときには立場を利用して知識を搾取したり、お菓子を制限したり、魔石の購入を邪魔したり果てには八つ当たりしたりなどやりたい放題をする完璧とは程遠い人なのだということを。
私はきっと、ずっと誰かに言いたかったのだ。
――お母様ってずるいんですよ!! と。
人に話すことで、悩みが顕在化することもある。
自分のもやもやとした気持ちの根元が判明した今、ソフィアにとってカイルの悩みは割とどーでもいい話へと転落した。
無理に聞き出すの、ダメ、絶対!




