お気に入りのオモチャ
カイルの態度がおかしい。
私がその事実に気づいたのは、とある休み時間、偶然視線がぶつかった時に不自然に顔をそらされたのが始まりだった。
でも、私の勘違いかもしれない。その可能性も捨てきれない。
カイルなんぞに自意識過剰女と思われるのは癪なので、軽く罠を張ってみることにした。
「首筋が弱いってホントに〜? あんたはどう見ても耳が弱い顔でしょ」
「いやそれどんな顔よ!?」
「へー、これが耳の弱い顔……」
「真に受けてる!?」
友人たちとじゃれあいながら立ち位置を変え、私が振り返らない限りカイルを見ることはできない位置へと移動する。
それはつまり、カイルが私に気づかれることなくこちらを見放題になる位置ということだ。
普段ならばお互い自然と相手が目に入ることはあっても、じっとガン見なんかしたりはしない。近くに座れば話すこともあるけど、カイルは大体ウォルフかミュラーあたりと話していることが多い。
今日もウォルフと一緒にいて、一件普段通りに見えるけれど、果たして私の感じた違和感は気の所為だったのだろうか?
「それでね、義姉さんが言うにはあたしって男をダメにするタイプなんだって。愛情が深いって。でも愛情を注ぐ相手がいないから実感がなくてさあ!」
「「あはははっ」」
よし、この盛り上がったタイミングで……ちらっ。
僅かに振り向き横目で確認したら、さっ、と顔を背けるカイルが見えた。ウォルフにも不自然な動作を指摘されている。これは……。
やっぱりなにかあるね。
一回なら偶然でも、二回目の反応がこれじゃあ、怪しむなってのが無理な話でしょう?
と、いうわけで。
次の授業の時間を使って、カイルで遊ぶ方法を考えることが大決定したのだった。
たーっぷり楽しむぞう!
さて、とはいえ。
遊びがいのあるオモチャが見つかったことは大変に喜ばしいことだけど、このオモチャは生意気なので、少々遊び方にコツがいる。あんまり舐めてかかると手痛い反撃を食らう可能性があるのだ。
カイルには私を楽しませようという気概が足りないと思う。
でもちょうど私が気分を盛り上げたいなーって思っている時に自ら生贄になりに来た献身に免じて、いじるのは程々にしてあげようかな。今は結構気分いいし!
カイルは私の優しさに咽び泣くといいんじゃないかな!
というわけで、授業が終わった直後、席を立とうとしていたカイルを捕まえてみた。
「カーイルっ」
「来んな」
この勘の良さよ。
でも気にしない。
だって楽しいことはみんなで共有するべきだもんねっ!
「なになに、今度はなにを隠してるのー?」
逃げようとしたカイルを無理やり席に座り直させて、すぐさまその横に陣取った。
ふっふっふー。逃がしはしないよー?
私の顔を見て抵抗は無駄と悟ったのか、大人しくなったカイルが溜め息を吐く。
「なんなんだよ、もう……。お前ホント、わけわかんねぇ」
重い溜め息と共に吐き出されたその言葉には、深い諦めが滲んでいた。
いやいや私の方がわけわかんねぇですよカイルさん。
なんで私、カイルに呆れられてんの? 新技? ねえ新しい煽り方ですかこれ。ちょっぴり効いたよ。ちょぴっとだけね。
「そう? カイルがまた私に隠し事してそうだなーって気配を感じたから確認しに来ただけなんだけど?」
悪いのは私? いやいや、幼馴染みである私に隠し事なんてするカイルの方だよね? という意味を込めて、にっこり笑顔で威圧する。
その顔を見てカイルはまた大きな溜め息を吐いた。一体なんなの。
「お前は悩みがなさそうでいいよなぁ……」
なんだこいつ。やっぱり煽ってたの? 争いがお望みなら受けて立つぞおぉん?
と、普段の私なら軽く挑発に乗っているところだけど、今日はちょうど争いの不毛さに辟易としていたところだ。見逃してやろう。
喧嘩してたら負けないけど。喧嘩してたら負けないけど!
見逃してあげよう! 私は優しいから!!
私の優しさに感謝することだね!! はんっ!
「ふーん? そういうカイルにはさぞかし大層な悩みがあるんだろうね。せっかくだから聞いてあげるよ」
全く、どうにもカイルと話してると毎回こんな感じになっちゃうな。
それもこれも、すぐに憎まれ口を叩くカイルが悪いね。うん、間違いない。
私だってカイルが普通に接してくるなら普通に会話するつもりはあるのにさ。
でもカイルってばなにかと私を邪険にしてくるんだよね。なんなんだろうね。反抗期かな。子供だね。
「なんでお前に言わないといけないんだよ……。人の悩みを笑うなんて悪趣味だからやめた方がいいぞ」
これだもんなぁ……。
いいよもう、生意気なお子様に何言われたって気にしないから。
もう少し大人になった時に「カイルちゃんは幼馴染みの女の子に甘えて生きてましたー」って事実が残るだけだから。その時になって身悶えるがいい。
……ぷぷぷ、恥ずかしがるカイルの姿想像してたらちょっと楽しくなってきた。
カイルの相手ってほんと飽きないよねー。
カイルとじゃれるソフィアを見てほのぼのとするウォルフ&ミュラー。&その他クラスメイトたち。
当人たちが生暖かい視線に囲まれている事に気付かないのは、それだけお互いに夢中になっている証拠……なのかもしれない。




