負けたら逆襲をしよう
「カイル様、私が貴方に嫌がらせをする理由がありますか?」
胸の前で両の手を組み合わせ、心外だという意思を込めてカイルの目を真っ直ぐに見つめる。
悲しげに歪んだ眉と震える睫毛は儚げな容貌と相まって今にも泣き出しそうに見えるはずだ。
中性的な、幼いながら整った顔立ちをしたカイルの鳶色の瞳が私を見つめ返す。
力強い意思の篭った瞳は決して折れぬと私に訴えかけているかのようで、言葉が無くともその芯の強さが如実に伝わってきた。
「お前は、俺に、嫌がらせをしたの? してないの? どっち?」
くっそくっそ。折れろ、無駄な頑固さなど折れてしまえばいいのに。
精一杯作った悲しげな雰囲気をかなぐり捨て、ちぃっ! と舌打ちを零す。
「嫌がらせしてましたー。ごめんなさいー」
どうやっても誤魔化せないからいっそ開き直ることにした。
投げやりに謝罪する私の様子にカイルはやっぱりな、と溜め息を吐く。
「ホント、お前いい性格してるよ。ま、嘘がつけないのは致命的だけどな」
にひひと勝ち誇っているその顔、張り倒したい。
私は別に嘘がつけないわけじゃない。
昔、子供の頃にお母さんにつかれた嘘が悲しかったから、子供に嘘をつくのに抵抗があるだけだ。
訂正する義理もないから勘違いさせとくけど。
「用が済んだなら帰れば?」
「相変わらず冷てーな」
我ながら冷たいとは思うけど、気付かれないように近付いて髪の毛数本毟ったり、毛虫を顔面に投げつけてきたりするような奴には妥当な対応だと思う。
乙女の恨みはしつこいんだぞ。
「それにまだ用済んでねーし。あいつらけしかけたのお前なんだろ? もう俺に付きまとわないように言っとけよな」
「は?」
アンタがそれ言う?
「は? ってなんだよ」
カイルは訝しそうにしてる。これは本当に分かってない。
私がなんで面倒くさい嫌がらせなんてしてると思ってるんだ。
人の振り見て我が振り直せ、って諺を知らないのか!
…………ん? よく考えたら、知らないのか。世界違うもんね。
い、いや、それより!
今は私が怒っていいターンだよ!
「じゃあカイルが私に付きまとうのを止めてくれたら、彼女たちにも止めるよう言ってあげるよ」
「はあ? 別に付きまとってないし!」
「じゃあ彼女たちも付きまとってない。ただお喋りしてるだけだね」
「なんだよそれ!」
案の定怒り出した。
言葉や正論をぶつけてねじ伏せれるなんて思ってない。
子供の考え方は私には理解不能だ。
だけど、私が正しいと思う意見なら押し通せる。私の平穏の為に、子供の意見を無視して蹂躙する。私は私がいちばんかわいい。
「だって、ずーっと話しかけてきて、どっか行ってって言っても離れてくれないじゃん、カイル。カイルが嫌がる女の子達だって、ずっとついてきてずっと話しかけてくるんでしょ? カイルみたいに意地悪しない分マシだと思うな」
「それはっ! ……そうかも、しれない、けど……」
うぬ? 意外や意外、聞く耳持ってた。
折角だから溜まってるの全部吐き出させてもらおう。
「私が嫌がってもカイルは止めてくれないのに。突き飛ばされたり、髪の毛ひっぱられたり、お友達と話してるの邪魔したり。自分は好き勝手して人に迷惑かけてるのに、自分がやられたら怒るの? 我儘すぎるよ」
まあ最近は暴力はなくて煩いくらいしか害ないけど。
出会った頃は酷かった。とんだガキ大将だったね。
同世代で一番強かったから井の中の蛙の王様状態で、それはもう大変だった。
ここまで矯正した私を褒めて欲しいくらいだね。
「ちゃんと反省して」
うん、責められて敗北を認めたはずがいつの間にか立場が逆転している。
よく分かんないけど攻められる時に攻めとこ。
ソフィアはやられたらやり返すタイプ。
アイツうるさいなあと思ったら気持ち大きく音を立てる。貧乏ゆすりが鬱陶しかったら自分も貧乏ゆすりする。なんたる狭量&チキン!