誰か神様要りませんか
深夜にお兄様が私の部屋に、なんて。普段なら飛び上がって喜ぶ所なんだけどね。
私にはもうそんな元気は残ってないのよ。
全部あの金髪が悪い。
とりあえず来ちゃったものはしょうがないので、あの金髪が神様で、現在早々に帰ってもらう為にリンゼちゃんが説得中という事情を簡単に説明した。
普通に聞いたら頭がおかしくなったとでも思われそうな話でも、リンゼちゃんという前例がある我が家では異常な程に理解が早い。
不審な生首=神様の図式はすんなりと受け入れられた。
「……神とは、また」
「とても神の姿とは思えないね」
多分本物だろう神様を目の前にしてこの反応。
実に頼れる家族である。
「私も驚きました」
まあ私が驚いたのは、神様のあまりに残念な性格に、なんだけどね。
大体ふつー神様っていえばさ、ひげもじゃおじいちゃんが大らかな笑顔で「ふぉっふぉっふぉ」ってイメージじゃん?
犬神様だと思ってた時だって、たとえクール系わんこでも優しさはあるはずと思ってたっていうか、そもそも犬って人間の隣人的ポジションだしさ。まさか敵対してくるとか思わないじゃん。こっちにはリンゼちゃんもいるってのにさ。
「……ところでソフィア。その、神であるあちらの方に対し、あの様な仕打ちは本当に必要だったのですか?」
あちら、あの様に、と生首をチラ見する度、ちょっぴりビクビクしてるお母様。
どうやら神様という肩書きを持つ相手を拘束している事実を畏れ多いと感じているみたいだ。
「むしろあれでも穏便な方です。一度会話を試みれば嫌でも分かりますよ」
そう言って、遮音結界の内部をオススメしておく。
いやホント、会話が成立しなさすぎてすごいんだからねあの神様。うちのフェルたちの方がどれだけ優秀か。神様って実は人の言葉を聞き取る機能ついてないんじゃないのってくらい自分の言いたいことしか言わなくてびっくりするわ。
いくら温厚な私だって、馬鹿の一つ覚えみたいに「死ね」だの「殺す」だの言われ続けたら、つい永遠に静かにさせてあげたくなっちゃうんだからね?
神様体験コーナーへ出向いたお母様を見送って、お兄様の膝の上で丸まったエッテを撫でて癒される。
なでなでする為だけに眠ってるフェルを起こすわけにはいかないからね。
乱暴者な神様の事を考えてささくれだった心を慰めるなんて私事に、のんびりしているエッテを呼びつけるのもかわいそうだし。
となると必然、エッテを撫でる為には私からお兄様に近付くしかないよね。エッテぐっじょぶ。
エッテやらお兄様やらが発する癒し成分をたんまりと摂取していたら、声の断絶された空間で会話を続ける三人を眺めていたお兄様が、不意に問いかけてきた。
「ソフィアはあの男をどうするつもりなんだい?」
どうすると聞かれても……どうしたらいいんだろうね?
初めはただリンゼちゃんの望むようにしてあげたいと思ってただけなんだけど、シンが意見を変えない限りその希望は叶えられそうにない。それで困っているのが現状だ。
あんまり考えてなかったけど、シンの身柄をどうするのかって、実は私に決定権があるんだよね。
どうしよう、絶対反抗できないように厳重に梱包でもして、どっかに生き神様として売れたりしないかな。聖女が認めた御神体としてどこかに……、……万が一でも私が崇める対象とかにされたら嫌だな。この案は却下だ。
「女神様が引き取りに来てくれると助かるんですけど……」
そもそも依頼主兼飼い主さんである女神様がいないからこそ話がこじれているわけで。
あの自分の立場を理解してない生首に言うことを聞かせるには、やはり女神様からの言葉が必要なように思う。
だというのに、肝心の女神様との連絡手段がない。
現状リンゼちゃんに女神様の方から連絡が来るのを待つしかないとか、厳しいってもんじゃない。手詰まりってやつだ。お手上げ〜。
エッテの手をばんざ〜いと持ち上げる。
抵抗無く持ち上がった手を上げたり下げたりして弄んでも、大して気は晴れなかった。はぁーねっむ。
眠過ぎてダルいけど、お兄様の前でだらしない顔はできないし、シンがなんらかの手段で反撃に出てくる可能性もないではないし、もお〜……。
眠気のせいか少しイライラが増してきた気がする。
っていうかこれさ、完全に起こされ損だよね。
もう原因の全ては女神様にあるんじゃないかって気すらしてきた。早くあれ引き取ってくんないかな。
声が聞こえずとも明らかに説得に苦戦しているリンゼちゃんへ向けて心の中でエールを送りながら、お兄様とエッテを可愛がりながら時間を潰した。
正直、つらいです。
神様には人権は適用されないので身売りも合法です。多分。




