神様はマザコンらしい
未だに信じたくないんだけど、この世界の神様であるらしいところのシンこと、猪突猛進破壊光線暴発野郎は、本当に駄犬の方がまだマシなんじゃと思うくらい聞き分けがなかった。
というか、ぶっちゃけマザコンだった。
それも、ママに喜ばれたくて余計な事ばっかりするタイプの、人類にとって迷惑極まりないアクティブなマザコンだった。
でもね、知ってる?
マザコンって大抵、ママの方にも問題あるんだよね。
はい、ではここでシンくんママ(分身)に、わがまま放題なご自身のペットをどう思うか聞いてみましょう!
「シンも普段は、聞き分けのあるいい子なのだけど……」
はい出た「普段はいい子」ー! それ普段から人様には迷惑かけてるやーつ!
お願いだから現実見てー?
母性を感じさせるリンゼちゃんは悪くないけど、それ完全にダメ親の言うことだかんね。自覚してね。
「お前にいい子などと呼ばれる筋合いは無い!!」
そしてママに甘やかされて育ったシンは、女神様の分身であるリンゼちゃんをママと認める気は無いようで、全然話を聞いてくれない。解放した瞬間にお前たちを殺してやるとうるさいうるさい。
もうこいつアイテムボックスに再封印すればいいんじゃないかと思う。
――そもそも、無理な話だったのだ。
リンゼちゃんは、女神様からの連絡を受けて、シンを女神様の元へと帰すことが目的で。
シンは「ヨルの元に帰るのは当然だけど、人間如きに捕らわれた事実は消さなければならない」と私を亡き者とすることに躍起で。
私はリンゼちゃんのお願いは聞いてあげたかったけど、自分を殺そうとしてくる相手をそのまま解放するほどお人好しではない。
結果、シンは未だに頭部だけの状態でリンゼちゃんと言い合いをしているというシュールな光景が継続中。話は当然平行線。時間だけが過ぎていく。
あっ、ちなみにヨルっていうのは名前の無かった女神様にシンが付けた名前らしい。
それをシンとの話の流れでリンゼちゃんが話しているのを聞いて、うっかり私が「女神様ってヨルって名前なんだね」なんて言っちゃったもんだから、シンが「人間如きがその名を口にするな!!!」って怒っちゃってもう大変なんだわ。マザコン面倒くさすぎ。
しかもその怒声を聞いて籠で眠ってたエッテも起きてきちゃって、それを見たシンがまた「魔物を飼い慣らすだと!? 人間のクズがッ!!」とかってうるせーのなんの。余計なお世話だっつーの。
今はもうリンゼちゃんとシンだけを遮音の結界で隔離したから静かだけど、中に入ったらまだ喚いてるんだろうなー……はあ。
「女の子に大声で威圧してくる男って最低だよねー」
「キューイ」
エッテのかわいいおててをうにょーんと左右に伸ばしたりして遊びながら、狭量な男のダメさを共有する。
人の話を聞かない暴力男とか実際ないよねー。
ダメダメ駄神のせいでまだ見ぬ本体の方の女神様に対するイメージもかーなりダウンしちゃったし。
大事な人がいるなら、その人の為にも、誇れる自分でいるように常に努力しなくちゃいけないのにね。
少しは私を見習って……まあ、人の話も聞かないよーなのには無理な話か。
早くリンゼちゃんも説得は無駄だと諦めてくれないかなーと待っていると、前触れなく部屋の扉が開いた。
「ソフィア? まだ起きているのです……か?」
さっきのシンの怒鳴り声でも聞こえたのか。
開いた扉の前で、お母様が固まっていた。
その視線の向かう先は言わずもがな。
遮音の結界のせいで未だにお母様が来たことに気付いていないリンゼちゃんと、その真向かいに浮かぶ見知らぬ男の頭部。
しかもその生首は表情豊かに動くんだから、驚かない方が無理ってものだ。
頭部しかない謎の男を、まじまじと時間をかけて見つめた後。錆び付いたような動きでこちらに振り向いたお母様の顔はとっても真顔でした。
私にとっては生首よりもホラーだね。
「ソフィア?」
あれはなに? と何よりも雄弁な目が語ってらっしゃる。
もちろん説明させて頂きますとも。
娘が深夜に見知らぬ男を部屋に拉致監禁してるようにしか見えないだろう現場を目の当たりにしても、怒鳴り散らしたりはせずに、まずは話し合いでの解決を試みる素晴らしい精神。
そんなお母様を私は尊敬しているからね。
「とりあえず入ってください。あと、あの金髪には近付かないようにお願いします。危険なので」
たとえ怒鳴られない理由が「今日はもうたっぷりと叱ったから怒る気力が残っていない」というものだったとしても、結果が全てだ。
私も怒られる気力なんて空っぽなのでとても助かる。今日、というか昨日だけで一生分は怒られたもんね。
って、あれ? エッテどこ行った。
お母様に状況の説明をしようとして、さっきまで手の中にいたエッテが消えていることに気付く。
どこに行ったのかと部屋を見回して、絨毯の上をとととっと歩く姿を発見。お母様の元へ行くのかと思いきや、その後ろ、扉の影にもう一人の人物がいたことに気付いた。
保護者たちに安息の時間は訪れない。
それが、ソフィアの近くに居るということなのだ……ッ!




