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ロランド視点:誤算


 ソフィアが無事にベッドに寝かされたとの報告を受けてまず初めに思ったことは「やっと終わったか」というものだった。


 報告から間を置かず、部屋に置かれたぬいぐるみの口からぬるりとフェルが出てくるも、その動きに普段の精細さはなく。ぐったりとした姿からは明らかな疲れが見て取れた。


 無理もない。

 あれだけの時間魔法の行使を続けられるというだけでも驚嘆に値するものだ。


「無理をさせてすまない。でも、お陰で助かったよ。ありがとう」


「キュウー」


 疲れ果てたのか、もう念話を飛ばす元気もないようだ。


 労りの気持ちを込めて頭を撫でれば、気持ちよさそうに鳴き声を上げる。指先に感じる肌触りが気持ちよかった。


 それにしても……驚いたな。


 まさか母上が、ソフィアを脅迫するような手段を取るとは思わなかった……というのは、言い訳かな。


 今日ソフィアが怖い思いをしたのは、全て僕のせいだ。僕の甘さが招いたことだ。


 僕ならば、この事態を想定することだって出来たはずなのに。認識が甘かったと言わざるを得ない。


 ……人というのは、本当に思い通りにならないな。


 もっとも、それが面倒でもあり、面白い所でもあるんだけど。


 しかしだからこそ、僕がしっかりとしていなければいけない。


 ソフィアを確実に守るために必要なことはいくらだってある。女神や災厄の魔物なんて存在がいる以上、どれだけ備えたところで万全なんてありはしないのだから。


「そう、万全なんてありえない……」


 万全が無理ならば、十全に。


 僕にできる限りをしようと心に決め、その為に、ソフィアに黙って盗聴めいたことまでしているのだ。


 ……バレたら、やはり嫌われるだろうか。


 その覚悟を持ってしている事とはいえ、心配にはなるが……。


「……ふふっ」


 そ、それにしても……。

 ソフィアは実は僕の盗聴に気付いているんじゃないかと思わせることがあるね。


 さっきの母上からの呼び出しにしたって、まるで僕が登場する舞台を整えているかのような、そんな印象を受けてしまう。


 ソフィアの怯えようはともかく、母上がソフィアに危害を加えるとは思えなかったので、静観に回ったけれど……その後に始まったソフィアのあの告白は、中々に興味深いものだったね。


 ソフィアがいつも行動を起こす裏で、一体何を考えていたのか。


 それは僕がどれだけ望んでもこれまで知ることの出来なかったもので、思わず時間を忘れて聞き入ってしまった。


 中でも……はは。

 ソフィアが気に入っているあの物々しい鎧を量産して、使用人として扱おうと考えているだなんて。そんなことはソフィア以外の誰にだって想像できないだろうね。


 本当に、ソフィアは楽しい。周りを明るくしてくれるいい子だ。


 その事を再確認すると同時に、喫緊の問題についても思考を巡らす。


 ……前回の登城で一気に良い印象を広めることは出来たけれど、未だにソフィアを良くない者と考えるやつらもいる。


 空気が完全に塗り変わった今、彼らが表面的な迎合を始め、潜在的な敵になる前になんとか――うん? なんだ?


 思索を邪魔した音に耳を澄ませば、再度、扉から軽い音が続く。


 ノック? こんな時間に?


 訝しく思う間に、訪問者の正体は判明した。


「ロランド、私です。話したいことがあるのですが入っても構いませんか?」


 ――これは、まさか。


「もちろんです、母上」


 普段通りの表情を作りながら、頭だけは必死に思考を重ねていた。



◇◇◇◇◇



 ソフィアとずっと話していた母上が、何故僕を訪ねてくるのか。それも、翌朝ではなく、わざわざ深夜の時間帯を選んで。


 ……逃げ場を無くされた?


 心当たりはある。が、まだそうと決まった訳でもない。


 母上とソフィアが交わした会話の内容にさえ触れなければボロは出ないだろう。


 そんな甘い事を考えていた。


「こんな時間に珍しいですね。緊急の用件ですか?」


 あくまで普通の母と息子であろうとする僕に対して、母上はとっくに覚悟を決めていた。


「単刀直入に聞きましょう。陛下の変心……ロランドの仕業ですね?」


 ――鳥肌が立った。


 疑いは持たれると思っていた。しかし、この確信に満ちた言葉は……。

 なによりも、これがソフィアとの会話を経て導き出された結論だという事実が、僕に強い衝撃を与えていた。


 ははは。僕は馬鹿だ。何故根拠もなくバレていないと思っていた?

 相手は賢者と呼ばれる傑物、しかも僕とソフィアの生みの親だぞ?


 これは、覚悟を決める必要がありそうだ。


 半端な気持ちで向き合えば、先程のソフィアのように僕まで丸裸にされかねない。

 ……ソフィアとお揃いというのは、中々に魅力的ではあるけれどね。


 いつになく真剣な顔をした母上が有無を言わせぬ圧を放つ。


「話をしましょう、ロランド。貴方が何を考えているのか。私は知らねばなりません」


 ……この強さが、親というものなのだろうか。



 ソフィアに似た、絶対に譲らないという意志の輝きが眩しくて。


 僕は少しだけ目を細めた。


ソフィアのせいで悪を知った二人が今、ソフィアの知らぬところでぶつかり合う。


なお主人公ちゃんがお休み中につき「やめて!私のために争わないで!」イベントは発生しません。あしからず。

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