寝させてください
どうやら王様が精神系魔法にかかっていた疑いがあるらしい。
そしてその魔法の存在を知っていた私が、絶賛取り調べを受けている真っ最中というわけだね。
余分な……本当に余分な話が長引いて、時刻はもういつもなら眠っている時間である。
実は恐怖から解放された辺りから地味に眠たいんだよね。
早くお話終わんないかなぁと思いつつ、睡魔とのバトルを繰り広げるのだった。
未だに絶妙な緊張感が続く中、お母様の質問は続いていた。
過去にネムちゃんにかけられた、精神を不安定にさせる魔法。
その魔法の存在知った私も同じ魔法が使えるのではという質問に対し、私は肯定を返した。
「ではその魔法を誰かに教えたことは?」
私がまだ疑われている……というわけではないらしい。
矢継ぎ早に質問するお母様を見るに、犯人の心当たりでもあるのかもしれないね。
でも私が誰かに教えるってのはない。
自分が醜態を晒す原因となった魔法を他人になんて教えるわけないじゃん。
今なら多分防げるけど、それでもこの魔法は危険だ。
この魔法の存在を知ってるのだって、ネムちゃん師弟と、あとあの時一緒にいたカイルたちくらい……意外といるな。
「使い方を教えたことはありませんが、この魔法の存在だけならば、私の知る限りでも何人かは知っています」
そう言ってお母様にカイルたちの情報を渡す。
あ、知ってるといえば、今はアネットさんに取り憑いてるソフィアの魂もこの魔法のことは知ってるのかもしれないね。私の事はずっと見てたみたいなこと言ってたし。
でも、人……じゃないしなぁ。
本体のアネットさんは知らないだろうから、わざわざ言う必要も無いかな。お母様にその辺の事情を説明する気はないしね。
「……他には、誰にも?」
「私が知る限りでは今言った人たちで全員です」
しかしお母様は何かが納得いっていない様子。
なんでー、どして? 犯人アドラスじゃないの?
そりゃ冤罪は良くない事だけどさー。王様洗脳なんてしそうなのあの人くらいしかいないじゃん。
なんでもいいから早く部屋に帰らせて欲しい。
もう意識してても目がトロンとしてきた。限界が近い。
なのにお母様の質問責めは未だに止まる気配がなかった。
「では考え方を変えましょう。ソフィアの親しいある人物が、何やら最近態度がおかしい。まるで性格が変わったみたいだ。となった時、ソフィアはどんな可能性があると思いますか?」
また、話が長くなりそうなことを……。
てか私の友達がそうなった場合、真っ先に疑うことなんて決まってるよね。
「恋人ができたと思うでしょうね」
「他には」
えー今の却下ですかぁ……? 一番可能性高そうなのに……。
他にねぇ……、うーんと。
「違う環境で生きてきた人との出会いがあったとか、考え方が変わるような衝撃的な出来事があったとか? それかー……えー、まあ洗脳でもされてるんじゃないですか。魔法か催眠術か知りませんけど。あ、逆に悩みが解決して明るい性格になったってこともあるかもですね」
思い付くこと並べてみたけど、もういいよ洗脳で。
考え方が変わった、って言い方は本人にとっては成長と呼べるかもだけど、人から見たら洗脳だもん。それは間違ってないもん。
自分の思い通りに人の考え方を歪めることを洗脳って呼ぶんだろうけど、誰かと関わり、話をしているうちに、その人の影響を受ける。知らなかった世界を知る。同じものを好きになったりもする。それは当たり前のことだと思うんだよー。
だからぁ……なんだっけ? 洗脳……洗脳魔法?
あれだって人の認識にフィルターかけて、「嫌い」を「好き」にしたり、「好き」のことばっかりを考えるようにとか、そんなことができるだけで……口が達者な人だったら魔法がなくても同じことが出来るっていうか……。
ああもう、眠い。眠すぎる。
眠気を覚ますこともできるけど、あれやるとしばらく眠れなくなるし、何よりお母様は私が眠そうにしてると優しくなる。お説教中だって中断してくれる程に。
だから……もう……。
私をベッドに、プリーズ……。
「催眠術? それはなんですか? 魔法とは違うのですか?」
食いつかないで欲しかったぁー!
ああー眠れないーまだ眠らせてくれないー!
今日のお母様は優しくないよう! もっと優しくなれよう!
だから鬼とか悪魔とか呼ばれるんだよ……。
呼んでるの私だけど。それも心の中でしか言えないけど。
「……催眠術というのはですね」
この説明が終わったら、寝る。だからそれまで、頑張る。
自分にそう言い聞かせて、重い頭で説明を始めた。
まだまだ夜更かしは辛いお年頃。
健やかに育つ為にも、夜はしっかり寝ないとね。




