冤罪の原因
結果から言うと。
私が話した中に、お母様が初めに大激怒していた理由に当たるものは無かった。
つまりはお母様の勘違い。私の無実は証明されたのである。
となれば当然、あの約束も果たされる義務が生じる。
そう、「勘違いだったことを認め、謝罪する」というあの約束だ。
謝られるのがあんなに恐ろしいと感じたのは、前世を含めても初めてだったよ……。
その後、明らかに怒りを抱えつつも何故だか怒りださずにひたすら私を注視し続けるという、終わりの見えない地獄のような所業を続けるお母様に、私は元から小さい身を更に小さくして怯えることしかできなかった。
静かに燃える怒りの炎がいつ爆発するのかとビクビクしながら、しかし逃げることも許されない。
もういっそひと思いにしておくれよ……。
という心の嘆きが聞こえたわけでもないだろうが、じっとりねっとりと私を見ているだけだったお母様が「叱らない方が貴女には効きそうですね」とか言い出して、結局叱られることはなくなった……みたいだった。多分。
罰もお叱りもなかったけど、「ただ……。……分かっていますよね?」と明言を避けて意味深に笑いかけられた時の顔が恐すぎて、しばらくは夢に見そうだった。
そして。
さすがに怖がらせすぎたと思ったのか、妙に優しくなったお母様に更なる恐怖を抱いたり、どうやら本当に許してくれる気があるらしいと若干心を許したりしていると。
私が落ち着いてきたのを見計らったお母様から、恐らく今回の本題だろうと思われる事を聞かれた。
「ソフィアは人の意識や考え方に影響を与えるような魔法に心当たりはありませんか?」
私知ってる。それ犯人ネムちゃんですよ。
とは流石に言えないので、それとなく探りを入れてみることに。
「誰かそのような魔法にかけられた人物に心当たりがあるのですか?」
軽い気持ちでそう聞けば、びっくりな答えが返ってきた。
「陛下にその疑いがあります」
それでか、私が怒られたの。
それは怒るわ。烈火の如く叱られるのも当然だわ。犯人私じゃないけどね!
超大国のトップを洗脳……。
うわぁ。なんていうかもう、うわぁとしか言いようがない。
それで王様があんなに情緒不安定だったんだ。あんなんで王様が務まるわけないと思ってた。納得といえば納得だね。
とはいえ、ネムちゃんがそんなことをするとは思えないんだよなあ……。
となれば、その犯人は当然……。
「使える人物に心当たりがあるのですね?」
「【探究】の賢者アドラスさんがその魔法を使えたかと」
私はネムちゃんの師匠を売った。
真実はいつもひとつ! とばかりに、奴こそが私が勘違いで叱られる原因となった諸悪の根源であると断じた。
あいつは本当にろくなことをしないな!!!
「そうですか……」
お母様はその話を聞いて黙考を開始。
きっと今頃お母様の頭の中では、あのエセ賢者を破滅させる方法が着々と構築されていっているのだろう。
実にいい気味だ! 人生終了して詫びろ!!
暗い悦びが私の気分を高揚させる。
「それで、ソフィアもその魔法が使えるのですよね?」
「え?」
だが熟考に入ったと思っていたお母様から唐突にかけられたその言葉で、私は一瞬で冷静になった。
ま、まさか……疑われている? わ、私が破滅する? てかあの変態と私の信頼度が同等とか嘘でしょ!? かわいい娘のことを信じられないとかお母様は頭のネジが飛んでるんじゃないの!?
「使えるのですよね?」
お母様の再度の確認の言葉に、降って沸いた復讐心なぞぽーいとどこかに飛んでった。
「……ええ、まあ」
落ち着け。大丈夫だ。まずはリラックスするんだ。りらぁっくす。
そう、ただ肯定すればいい。
嘘は悪手だ。どうせ私の行動パターンなんて知られ尽くしてるんだ。
私が知り得た魔法を自分のモノにしようと試さないなんてことはありえないと、お母様にはバレている。
ならば正直に答えるのが正解だ。
私は何もやっていないのだから、堂々としていればいい。
……やってないのに、さっきまでめちゃめちゃ責められてたけど。
「人相手に試したことはありませんが、できると思います」
お母様の質問に、できるだけ真摯に聞こえるように答えた。
尋問の夜は続く。
犯人がネムちゃんの場合→弟子の犯罪は師匠の責任→つまりアドラスが悪い
犯人がアドラスの場合→やっぱりお前だったか……
結論→どちらにしろアドラスが犯人
ソフィアにとっては、アドラスが悪いのは決定事項なのである。




