ラスボスはつよかった
なんとも嬉しい誤算である。
これまで怒髪天を衝いて全く聞く耳を持ってくれなかったお母様が、「もしかしたらこの怒りは正当なものでは無いのではないか」という可能性に自ら思い至ってくれるという奇跡が起きたのだ。
私は、このチャンスを必ずモノにすると誓おう。
じっちゃんの名にかけて!!
◇◇◇◇◇
……そんな決意から数分後。
勝敗はあっさりとついていた。
「そうですね。ではソフィアが私に叱られる可能性があると認識している全ての事柄をここで明示して貰いましょうか。もしもその中に私の思っていた事柄が含まれていなかった場合、勘違いでソフィアを叱ってしまったことを認めて謝罪すると誓いましょう。それでいいですね?」
「………………ハイ」
……おじいちゃん。私、失敗しちゃったよ。
肝心な所で失敗しちゃうのは、おじいちゃんの血なのかな? なんて、はは、あはは、ハハ……。
泣くわ。
お母様は何に怒っているのですか? →心当たりが無いとでも? →皆目見当もつきません! →ならば貴女の見当違いでしょう。貴女が些事と断じている中に正解があるかも知れませんから叱られそうな心当たりを全て言ってみなさい。ってなによこの流れ。ありえなくない?
自然なようでいて圧倒的な不自然感。初めから落としどころが決まっていたかのような気持ち悪さ。
これ私、もしかしなくてもお母様の策略にすっぽりハメられたんじゃないですかね?
だってだって、お母様ってばいつの間にか、激おこモードの貴女呼びから通常モードのソフィア呼びに戻ってるし……。
それになにより、済ましてるお母様のあの顔。あの落ち着いて見える顔の裏に、長年お母様の顔色を窺ってきた私だからこそ分かる微妙な変化があると言いますかね。その、満足そうな、すごくいい笑顔が透けて見える、っていう……。
これ詰んでない?
ここまでの流れがお母様の計画通りってことは、まさか、本当に? え? 本当に言わなきゃダメなの?
これ知られたらお母様に叱られそうだな〜って私が思ってることを全部自白しろって? 嘘でしょ。
ひとつひとつは大したことなくても、まとめて報告するとなればそれは、どれだけの怒りが買うことになるやら……。
日本には塵も積もれば山となるってことわざがあったけど、あれは塵の内にこまめに清掃しないととんでもないことになるよって格言だと思うんだよね。決して「山になるまで塵集めよーぜ!」ってことじゃなくてさ。でないとほら、私が山に殺されちゃう……。
「ソフィア、どうしましたか? どの話からしようか迷っているのですか? そうですか。ソフィアは私に隠れてそれほどの悪行を重ねて……」
「いえいえいえすぐにお話しますとも! ただお母様のお耳に入れるのが遅れて申し訳ないなと思っていただけですので!」
そして時間も稼がせてくれないというね。ははっ。
お母様の目は言っている。「なら早く話しなさい」と。「まさか言い逃れを考えてるわけじゃありませんよね?」と。
これ以上の遅延行為はお母様の逆鱗に触れかねない。
「えっと、ではまずは直近からですかね! かの災厄の魔物と呼ばれた魔物にお兄様と向かった際に、偵察という名目でありながらその実、普段は使えない魔法の練習をと――」
私はお母様に従順ですよと、話す意思はあるんですよと示すために、あえて明るく語り始めた。
世間一般ではこのような行為を「ヤケになった」と表現するのかもしれない。でもそれも仕方の無いことだと思う。
だって……ねえ?
もう無理、どうしようもない。逃げようがない。
そもそもお母様にちょっと睨まれただけで、私の身体は条件反射で怯えちゃうんだ。屈しちゃうんだよ……。
怒ったお母様には逆らってはいけないって魂に刻み込まれているんだ。本気になったお母様に適うはずがないじゃないか。
もうこのままズルズルと隠してることを全部白状させられる未来しか見えない。
……っていうか、今更になって気づいたんだけど。
こういう時って普通、「正直に言ってくれたら怒らないから」的な一言があるべきじゃない? ねえ。さっきのお母様の言葉の中には無かった気がするんだけど? もしかして言い忘れちゃったのかな。
…………ごめんなさいお兄様。
ソフィア今日、お星様になるかもしれません。
もしも生きて帰れたその時には、たっぷりと甘やかしてくださると嬉しいです。
お母様へと自白を続けながら、私は心の中でひっそりと泣いた。
母ってゅうのゎ。。
逆から読んでも母。。
もぅマヂ無理。
隙がなぃ。。
っょぃ。
勝てなぃ。




