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不穏な呼び出し


 それは、青天の霹靂だった。


 天に唾を吐けば自分に被る。

 悪事はいつかは露見する。


 そういった世の理から外れた、理解し難い強襲だった。


 だから、何かの間違いのはずなんだ。


「嘘、だよね?」


「本当に決まっているでしょう」


 縋るような言葉も、リンゼちゃんは無慈悲に切り捨てる。


 そして再度告げるのだ。

 聞きたくない。信じたくない、その言葉を。


「聞きたいことがあるから、すぐに私の元へ来なさいと。この言葉を聞いたらすぐに、どこにも寄らずに、そのままの服装で構わないから来なさいとのアイリス様からのお達しよ。あなた一体何をしたの?」


 絶望で目の前が真っ白になった。



◇◇◇◇◇



 おかしい。

 そう、おかしいのだ。


 通常であれば、夕食時に一言、私に直接呼び出しがかかるだけのはずなのだ。


 その時にあらかじめ話の内容が伝えられることも多い。

 残念ながら褒められることは滅多にないが、叱られるにしたって心構えができるというのは非常に大きい。適切な言い訳の有無でお説教の時間が半分以下になったり、逆に倍以上になったりすることも珍しくないのだから。


 だというのに、今回のこの異常な呼び出しはなんだ?


 まず時間帯がおかしい。


 夕食の直後。

 それはつまり、夕食時に言うことができたにも関わらずにあえてそうしなかった理由があるということ。


 わざわざリンゼちゃんを介して呼び出す理由は? 家族への秘匿? それとも、顔を見て話すと感情を抑えられる自信がなかったとか? それほどの激情を抱えている?


 ……ただの想像でしかないのに、ちびりそうなほど怖いよぉ……。


 お兄様がこの家の人じゃなかったら家出してたかもしれない。そのくらいには追い詰められてる。


 お母様って普段はあまり本気で怒らないけど、その分怒る時は全力で、一切の容赦がないんだよね……。

 もう食事の時の平穏が嵐の前の静けさにしか思えなかった。


 だが不振な点はそれだけじゃない。連絡の内容もおかしい。


 リンゼちゃんに聞くところによれば、お母様はやたらと「すぐに」ということを強調していたらしい。


 ただ単に急ぎであるなら、それこそ夕食時に話すべきだし、なんなら夕食後に残してもいい。食堂で話し合いに移行したって問題ないはずだ。


 なのにそれを良しとせず、わざわざ部屋に一度戻した後で再度呼び出す。その意図は何か?

 最後の晩餐? 部屋に戻って気が抜けた精神状態が必要だった? 私がお母様の言葉をどれだけ重視するか試されている? お母様の想定より遅かったらお仕置きとかされる?


 ……おかしいなぁ。早歩きしかしてないはずなのに、心臓の音がやけに耳につくし変な汗が滲み出てくるよぅ。


 一体私が何をしたというのか。


 呪いのように頭にへばりついた「すぐに」という言葉が無意識に私の足を早くしたのか、嬉しくもないドキドキを抱えたまま、びっくりするくらい早くお母様が待つ部屋に到着した。到着して、しまった。


 私を逃がさないように捕まえていたリンゼちゃんの手が離される。ここから先は一人だ。もしかしたら私は生きては帰れなくて、これがリンゼちゃんと会える最期の機会になるかも、なんて馬鹿な考えが浮かぶ。いくらなんでも大袈裟だ。理性では分かっている。しかし心情的には、死ぬ方が楽なんじゃないかって気がして、あの、もうホント、泣きそう……私が何したって言うんだよぅ……。


 縋るような目を向けたリンゼちゃんは、珍しく困ったような顔をしていた。


「……えっと。まあ、いつものことでしょう? 頑張って叱られてきなさいな」


 リンゼちゃん。それは励ましの言葉じゃないと思うよ……。


考えれば考えるほど、悪い想像は膨らむ。

……しかし外野からすれば「呼び出されて叱られてるのなんていつものことですよね?」程度の認識でしかない。

ガンバレ。

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