ペットに飢えてる王子様
……アーサーくんが、私のこと、ガキだって。
なんて心にクる言葉だろうか。
やられたら必ずやり返すし、相手の弱みを見つけたら敗北宣言があるまでネチネチネチネチ責め続けるし、なんなら負けを認めた相手にさえ事ある毎に蒸し返しては上下関係を丁寧に刷り込んでいるような私が、大人げないガキなんだって。
よく見てるよね。
それなりに隠してるはずの私の内面を正確に見抜くなんて、これもアーサーくんと仲良くなってきた証拠かな? なんて冗談はともかく。
アーサーくんから【探究】の賢者の現在の居場所を教えてもらった。
それによると、なんでも期限未定の帰省中であるらしい。
あのおっさんって本当に間が悪いというか、肝心なところで役に立たないよね。
それに比べてアーサーくんの有能さはどーよ。
見てるだけで癒されるし、生意気だけどかわいいし、地味に色んな情報持ってるし。
お母さんはもう手遅れな感じの腹黒だけど、どうかアーサーくんにはそのまま感情に素直な、いい子に育って欲しいねー。
「教えてくれてありがとう。アーサーくんはいい子だね」
いい子いい子〜って頭を撫でてあげたら、手を払われた。
「頭撫でんな」
あん、つれない。
でもフェルを撫でる為に細心の注意を払ってる姿見ちゃうと、やっぱり微笑ましくなっちゃうよね。
お菓子に夢中になってるフェルの頭を、そーっと、そーっと撫でててさ。まるで壊れ物を扱うみたいに優しーの。真剣な横顔がまたキュートなこと。
食事の邪魔をしないようにと気遣うその優しさはとっても尊いものだとは思うんだけど、でもその撫で方だと多分、撫でてる感触ほとんどないよね。
お兄様みたいなプロと比べれば劣るだろうけど、私とてフェルたちの飼い主として、毎日数え切れないほどになでなでを繰り返してきた自負がある。
好みは人それぞれとはいえ、その撫で方ではフェルの魅力を半分も堪能できないんじゃないかとそわそわしちゃうのは仕方ないと思うの。
だからちょっと失礼して。
「アーサーくん。少しいいかな」
「なに」
めっちゃ素っ気無い。
それだけフェルに夢中ってことですかね。
「あのね、手をこうしてて欲しいんだけど」
こう、とお腹の前に片手で受け皿を作るようなポーズを見せる。が、アーサーくんは見向きもしてくれなかった。
「今いそがしいからあとで」
どんだけフェルに夢中なんですかね。
てかなんで私がわがまま言ってるみたいになってるんだろうか。これでもアーサーくんが喜ぶようにと気遣ったつもりなんだけど……。
ま、まあいいや。
私は大人だし? 先に理由を伝えなかった非もある。ここは寛大にいこう。
「フェル、おいで」
呼び掛けと共に手を差し出すと、間を置かずにいそいそと登ってきた。
食べかけのクッキーを迷いなく咥えて来るその食い意地。嫌いじゃないよ。
食事場所を私の手の上へと変えたフェルをアーサーくんの目の前へと持ってくれば、なんで鑑賞タイムを邪魔するんだとばかりに睨みつけてたアーサーくんの眼光が緩む。空いてたもう片方の手で戸惑うアーサーくんの手を導き、フェルを受け取る姿勢を取らせると、その手の中に収まるようフェルを移動させた。
開いた手にフェルを乗せて固まるアーサーくん。
その驚きの表情が、だらしなくニヤけた顔に変わる瞬間の愛らしさといったら……。もうね、嬉しさが溢れちゃってるよね。
「ソフィア、これお菓子あげてもいいか!?」
「うん、いいよー」
喜んでるアーサーくん見てるだけで癒されるわあ。
フェルがお菓子食べる姿もかわいーからねー。存分に堪能するといいよー、と思ってたら、なにやらフェルの様子がおかしい。
なんだ? 私に何か伝えたいのかな?
えーっと、なになに。
食べる。ぺいっ。あれ。もぐもぐ。しあわせ〜。
初めのと後ので食べるポーズが違ったな。最初のはクッキーで、後のは……? それに指し示してたあれってフォークだよね。となると……。
「フェル、さっきのケーキ食べたいの?」
「キュウッ!」
それ! とばかりに甲高い鳴き声。
そういえばフェルが来た時にはケーキ終わってたんだっけね。
「アーサーくん。この子さっき私たちが食べてたケーキ食べたいみたい」
「そうか。すぐに用意させよう。いいな?」
「はい。すぐにお持ちします」
おお……流れるような自然な命令……。これが王族パワーか。
アーサーくんとはここ以外で滅多に会わないからどうにも忘れがちだけど、アーサーくんだって本物の王子様の一人なんだよね。
偉そうなのは偉いからであって、ただの生意気なだけの男の子ってわけじゃない、と。それでもかわいい男の子なことに違いはないけど。
それにしてもフェルってば、ここでそんなにお腹満たしちゃったら帰ってからご飯食べられなくなるんじゃないか?
後で怒られても知らないからね。
プロ撫でリスト、ロランド。
人、獣(魔物?)を問わず、その指技を受けたものは至福の時間を得られると、撫でられ界隈では有名らしい。




