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ミュラーvsカレン


 私はね、初めからこの授業があんまり好きじゃなかったんだよ。


 若いから怪我なんかすぐ治るだとか、痛みに慣れるのも訓練だとか、そりゃ軽傷ならそうでしょうとも。


 でも先生が認めるような一部の生徒は身体強化の魔法に近しいものが使えて、防御力もまあ上がるけど、それよりなにより攻撃力が飛躍的に上がるんだ。


 その威力、なんと木剣で地面を叩くと地割れが起きる。


 人に当たったら余裕で死ぬよね。




「ッつぅ!!」


 微かな悲鳴。巻き上がる土埃。飛び散る土塊。


 一応被害が広がる方向に人がいないことを確認はしてるみたいだけど……威力ヤバいね。


 ひと目でわかる高威力の攻撃がどのように行われたのかを、私の目はしっかりと捉えていた。


 それが起こったのは、ミュラーがカレンちゃんの懐に飛び込んだ瞬間。


 一度はやり過ごしたはずの横薙ぎの剣が、まるで反射したかのように絶大な威力を保ったまま再びミュラーを襲ったのだ。


 だがしかし、ミュラーはあらかじめこの攻撃を予測していたのか、見事にその一撃に反応して見せた。


 迫り来る剣の腹を正確に見極め、剣の柄で殴り付けて強引に叩き落とす。


 攻撃が来ると分かっていたとしてもそう簡単に出来ることじゃない。剣姫と呼ばれるだけの技量があって初めて為せると分かる、完全なタイミングでの対応だった。


 ――はずだった。


 ミュラーのミスは、剣の威力を甘く見積もったこと。


 カレンちゃんの膂力のみで無理やり引き戻されたはずの横薙ぎの一撃は、しかし充分以上の威力を有していた。


 ミュラーの打撃のみでは地面に叩き落とすには至らず軌道を逸らすに留まった。このままでは手痛い一撃を受けるのは必至。


 それを瞬時に判断したミュラーは、前へと進む力を上へと跳ぶ力に変えた。


 地を蹴り、横薙ぎを叩いた反動で身体を浮かせ、攻撃を飛び越すようにして回避。

 そのまま次の攻撃へと繋ぐかと思われたその時。ミュラーは右手に持っていた剣の刀身に左手を添え、咄嗟に次の攻撃を受け流すことに成功した。が、力の全ては殺せず、軽く吹き飛ばされて距離を離された。短い悲鳴が上がる。


 カレンちゃんは横薙ぎの一撃が逸らされたと悟ると同時に剣から右手を離し、未だ勢いのある左手と自由になった右半身による回転の力を加え、遠心力を充分に乗せた旋回式の裏拳を放っていたのだ。


 これってもう剣術の模擬戦じゃなくない? と思わなくもないが、そんなことよりも個人的にはほわほわ天使枠だったカレンちゃんがすっかり戦闘民族に堕ちていたショックがとんでもなく大きい。


 例え模擬戦とはいえ、ミュラーにダメージを与えられるって……。もう完全に染まっちゃってるよね。威力も速度も色々おかしい。


 目を瞑ってへろへろ剣を振り回していたあの頃のカレンちゃんは、もうどこにもいないのだ……。


「やるわねっ!」


「ミュラーだってっ!」


 うわぁ、青春だぁ……。青春してるぅ。

 私の知らない間にここは、いつのまにやら熱血バトル漫画の世界になっていたみたいだった。


 私の役割はさしずめ、二人に共通の友人Aかな。

 間違っても戦うポジションにはなりたくない……。もしあんな地面を抉るような攻撃受けたら、防護魔法貫通して足持ってかれそうで怖いし……。


 ってかこれもう模擬戦ってレベルじゃない気がする。


 あっ、ほら。地面抉った時の音に反応した先生が「なかなかやるな!」みたいな顔で見ちゃってるじゃん。みんなも「おおー」って顔してるけど、今のを見た感想が本当にその程度の反応でいいのかと切に問いたい。


 お母様に私の魔法は異常だって散々言われてたけど、ここの剣術も大概おかしいと思う。


「次、行くわよ!」


「うん!」


 そう声を掛け合って、再びぶつかるミュラーとカレンちゃん。



 私は二人が怪我をしないことを祈りながら、その暴威が私に向けられた時の対処法を考えていた……。


大概おかしい子の周りには何かがおかしい人達が集まる。

類は友を呼ぶのだ。

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