剣術真面目女子グループ
いつも剣術の時間にペアを組むネムちゃんがお休みなので、先生やミュラーに捕まったら面倒そうだなーという理由でそれとなく隠れてたんだけど、運悪くミュラーに見つかってしまった。
結構いい隠れ場所だと思ったんだけどなー、ウォルフの傍。
恋は盲目という言葉がある通り、ウォルフが近くにいたらミュラーの視線は全てウォルフの方に吸い寄せられて、私はただの背景として気にも留めない存在になれる予定だったのに。
一体どこで間違えたのだろうか。やっぱりウォルフと会話したのがマズかったかな。
ミュラーが異常に嫉妬深いということを失念してた私のミスだね。てへぺろ。
「ソフィア?」
「あ、いやなんでもないよ」
おっと、いけないいけない。
今はミュラーに言い訳するのが先だったね。
「ウォルフは、ちょっと気分が悪くなった私を心配してくれただけだよ。浮気じゃないよ」
「浮気って……そんな心配はしてないけど?」
とか言いつつ、顔を背けたのは恥ずかしかったからですか? かわいいんだからもー。
心配なんかしなくても、ウォルフはずっとミュラー一筋だっていうのにね。
「カレンは何してたの?」
しかし無実とはいえ、ミュラーによる浮気を疑われつつの会話は地味に精神が擦り減るので、さっさと話題を変えておきたい。
ミュラーが教師役を務めるグループには真面目に授業に取り組む女子が集まっているので、その中から今は休憩中な様子のカレンちゃんに構ってもらうことにした。
「えっと、今はね。さっきの模擬戦の時のミュラーの動きを、思い出してたの。参考になるかなって」
「へー」
休憩中じゃなかったのか。いや休憩中なのか?
休憩中にもそんなことを考えてるなんて真面目すぎて頭が下がるね。さっきまで「男子の汗の臭いって独特だよね」なんて考えながらプチ発情してた私がすごく穢れてるような気がしてきたわ。カレンちゃんまじ天使。
「それで? ソフィアは今日はやらないの? やるのなら相手になるわよ」
そんな天使なカレンちゃんとほのぼのしてたら、戦闘狂の剣鬼様からお誘いがかかった。
んー、確かに少し運動して発散したい気分ではあるんだけどー、ミュラーはちょっと。
未だに木剣持ったミュラー見ると、前に思いっきり叩かれた頭がそわそわするんだよね。これが傷口が疼くってやつなのかな。
「んー、私はやっぱりいいや。今日は見てるだけにする」
「そう? やりたくなったらいつでも言ってね」
お誘いを辞退すると、ミュラーはそう言ってあっさりと引く。
ミュラーも狂戦士モードじゃなければ普通にカッコいいのになあ……。ちゃんと剣姫に見えるのになあ……。
剣術の授業中に教師役の生徒がエンジョイ剣術勢の格下を本気で倒しにくるのは止めて欲しい。ミュラーはそれさえなければ、剣術を教える立場として何の瑕疵もない理想的な教師になれるのになあ……。
と、根性論大好きな教師に困ってる私は思うのだけどね。
そりゃね、剣も魔法も魔物に対抗する為のものと考えたら、下手に小手先の技術を上げるよりも咄嗟の時に身体が動くようにする方が大切なのかもしれないけどさ。
根性ってそんなに万能なものじゃないと思うよ。
今日も元気に大声を張り上げてる先生を見ながら、そんなことを考えてた。
「じゃあ、カレン。再開しましょうか」
「うん」
おっ、ミュラーたちが模擬戦を再開するらしい。
その声が聞こえたのか周りで訓練してた子たちが休憩に入り、自然とみんなでミュラーたちの戦いを観戦する形になってた。
まあ、女子の中でこの二人は別格だもんね。気持ちは分かる。
やがて一定の距離をとって向かい合った両者が武器を構えると、一瞬の緊張の後、戦いが始まった。
「いくよ」
「勝つ!!」
カレンちゃんの合図に応じ、相変わらずな掛け声と共に飛び出したミュラーが勢いよく迫るのに合わせて、カレンちゃんが反動を付けるような独特な動きで、木剣を大きく振り回した。
二人共同じ型の木剣を使っているはずなのに、まるでカレンちゃんの木剣だけが異様な重たさであると錯覚させるような異様な動き。
ミュラーはすぐに減速してカレンちゃんの横薙ぎの剣を余裕を持って避けると、そのガラ空きになった胴に姿勢を低くして突っ込み――をかけずにその場で急停止した。なんで?
大きな隙を見逃されたカレンちゃんは、空振りした剣の勢いをそのままぐるりと一回転させて更なる威力を上乗せした横薙ぎを放つ。
後ろに跳んで躱すミュラー。
ぐるぐる回りながら迫るカレンちゃん。
繰り返される応酬は喜劇地味ていて、ぶっちゃけかなり面白い。カレンちゃんが独楽みたいにくるくる回る。あれでよく目が回らないな。
どれだけ回るのかと興味の方向がズレかけた時、避けるばかりだったミュラーがようやく動いた。
カレンちゃんの回転に合わせて吸い込まれるように懐に入り、そして――。
ゴガンッ!!!
ミュラーの踏み込んだ地面が、爆ぜた。
女子の剣術は任意。男子は強制。
その流れから女子たちは、筋肉先生の指導相手を男子に限定することに成功していた。マッスル!




