下見デート
災厄の魔物とやらの倒し方を考えてはみたけど、まあ考えるまでもなかったよね。
テキトーに効きそうな魔法選んでドーン。
私に出来るのはこれだけだ。
これでダメなら私に出来ることなんかない。
私はただ魔法が得意なだけの、か弱い乙女……もとい。か弱い聖女なんだからね!
――と、いうわけで。
「とりあえず下見に行ってきます」
という感じで纏まった。
ここであーだこーだ考えるのもいいけど、百聞は一見にしかずって言うしね。
災厄の魔物を退治に新任聖女様がいざ出発! ってパレード的なのをまた後日にやるらしいんだけど、その前にちょろっと噂の魔物さんを見ておこうかなって軽い気持ちで王様に言ったら「何言ってんだコイツ?」みたいな目で見られてさ。どうも私が空飛べるって事をお母様から聞いてなかったみたいなんだよね。
それを受けてお母様が「良い機会だからソフィアの魔法の非常識さを伝えておく」って。「現実を受け止めるのに時間がかかるだろうから、その間に行ってきなさい」ってさ。微妙に失礼だと思う。
でもお兄様が同行してくれることになったから全てを許すよ。
「こちらは任せておきなさい」
「くれぐれも気をつけるんだぞ。ロランドも、危ないと思ったらすぐにソフィアを連れ帰って来い。いいな!」
「もちろんです。無茶はさせませんよ」
家族の見送りを受け、お兄様と二人空の旅。
お兄様から方角の修正をされながら、南へ、南へ。ぐんぐーんと飛ぶ。
眼下に広がる景色は、森と丘と平原と、あとたまーに川とか村も。
そんな変わり映えのしない風景を流していると、今度は進行方向の遠目にちょっと大きめの山が見えた。
植生が特殊なのか、他の山と比べて色が濃い。木の種類が違うのかな?
……っていうかさっきからなんか、肌がヒリヒリするような。
それに少し、肌寒くなってきた感じも……んん? 空調系の魔法に異常かな?
念のためにお兄様にも確認してみた。
「お兄様、寒くはありませんか?」
「いや、相変わらず快適だよ。ソフィアはやっぱりすごいね」
えへへぇ。褒められちゃったぁ〜♪
じゃないや、えっとえっと。
お兄様の方は、どうやら異常を感じてはいないらしい。
となると、問題があるのはお兄様と乗ってるこの「空飛ぶ荷車(廃品リサイクルバージョン)」を覆うように展開している風防用の魔法ではなく、私が個人で使っている身体強化魔法の方ということになる、けど……。
この魔法、お気に入りで十年以上常用してるけど、今まで不調なんてなったことないんだけど。
このタイミングで、初めての不調……? ないな。
ってことは……。
考えが形を持ち始めた頃、お兄様から鋭い声が上がった。
「ソフィア、あれだ。山じゃない。あれが災厄の魔物なんだ」
お兄様の指し示す先に目を凝らし、言葉を失う。
先程、違和感を覚えた山の一部が不自然に盛り上がった。
魔力視に視力強化を重ねれば、その異質さは一目瞭然。
やたら黒い山だと思っていた一帯が全て、一個の魔物の反応を示していた。
山のように大きなって表現はあるけど……それにしたってデカすぎでしょ。
さっきからゾワゾワしてたのはアレが原因か。
「ソフィア……どうする?」
ん、お兄様が少し及び腰になってる気がする。
まああんなデカブツ見たら誰だってなるか。そもそも魔物と対峙した経験すらなさそうだもんなあ、お兄様。
「えっと……もう少し近付いて様子を見たいんですが、構いませんか?」
でもなあ……。あの図体に、あの鈍重な動きを見ちゃったらなあ……。
お兄様には悪いけど、あんなに簡単に狩れそうな獲物を見かけちゃったらきっちりしっかり狩るのが礼儀なんじゃないかって気がしてきちゃうんだよなあ……。
でっかいだけあってかなり狩り応えありそうだし、王城で溜まったストレスのいい捌け口になりそうって打算もある。
それに普段は使い所のない広範囲高威力の魔法とかも好き勝手に使えそうで、むしろ気分はかなりアガってきていた。
大きな的っていいよね。
「ソフィアの好きにして構わないよ。ソフィアのことは信頼しているからね」
ふおおおっ、お兄様からもエネルギーが注入されて、ソフィアはもう戦闘準備万端ですよぅ!
任せてくださいお兄様。
あんなデカいだけのウスノロ、本討伐を待つまでもなく軽ぅーく討伐して参りますから! ソフィアはお兄様の信頼は裏切りません!
「ありがとうございますお兄様。では、もう少し近付きますね」
そうと決まれば早速目標を山サイズの超巨大魔物に定め、進路を微調整する。
さあさあさあさあっ、どうしようかね!
山一個分を吹き飛ばすには、どんな魔法がいいかなあ〜♪ うふふっ♪
ソフィアが「下見してくる」と言って下見で済むと思う者など、メルクリス家にはいない……親バカの父親しかいない。
非常識も慣れれば常識である。




