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お兄様の裏稼業


 お母様どころか王妃様すら知らなかった真実。

 お兄様は今、王様の元で秘密のお仕事をしているらしい。それが――


「宰相、ですか?」


「うん」


 宰相って、なんか……なんだ。王様用の専属執事みたいな、なんかそんな……そんなだよね!?


 よく分かんないけど、お兄様の執事姿は見たい!!


「カッコいいです!」


「ありがとう」


 お兄様って優しいし気が利くし、心安らかにさせるオーラ放ってるから、執事とか絶対似合うと思ってたんだよねー!!


「あのあの、お仕事の時の服装とかあうっ」


「ソフィア、少し黙っていなさい」


 だが思わず前かがみになったところで、お母様に頭を押さえつけられて下がっているよう言われてしまった。


 あーもー! お母様ったらいけずー!

 でもこれ妄想案件だから、お兄様とお話させて貰えなくっても全然問題ないもんねー! ふっふふふ!


「ロランド、これはどういうことですか? 現在の宰相は別にいたはずですが?」


「疲労が溜まっていたようですよ? 僕がその任を次ぐと申し出たら(こころよ)く任せてくださいました。ただ、僕はまだ見ての通りの若輩者ですからね。みなの理解が得られる歳になるまでは表には出ぬようにと配慮――」


 お母様とお兄様が話してるのを頭の表層で聞き流しつつ、妄想タイム開始だーっ!



◇◇◇◇◇



 朝は、至福の時間だ。


 幸福のコツは、目が覚めてもすぐには起き上がらないこと。

 暖かなお布団に包まれたまま微睡みの中に居座り、やがて朝食の準備を済ませた執事(お兄様)が優しく起こしてくれるのを待つ。


 今日も待ち焦がれた足音が、枕元で止まった。


 そうすれば次に待っているのは、波間を揺蕩(たゆた)うように柔らかな揺れと共に耳元を優しく撫でる、声だ。


 どこまでも甘く、甘い。

 夢のような心地のまま、現実との境を薄れさせる、魅惑の時間。


「ソフィアお嬢様、起きて下さい。朝ですよ」


 起こしているのか、寝かしつけているのか分からないような、耳触りの良い大好きなお兄様の声。


 毎朝この声で起こされる度、私はまだ夢の中にいるのでは、という錯覚に陥る。


 だが侮るなかれ。

 現実のお兄様は、夢の中のお兄様よりも大胆で、夢の中のお兄様よりも素敵なのだ。


「……おや、今日はお寝坊さんですか? 仕方がないですね……」


 お兄様の声を少しでも長く聞きたくて寝たフリをする私の顔に、影が落ちたのが分かる。


 顔を覗き込んでいるのだろうか? もしや寝たフリがバレてしまった?


 目を閉じたままでそんな心配をする私の耳に、不意に何かの感触がした。


 ――お兄様の手が私の耳を弄んでいる!


 どうしよう、くすぐられると反応しちゃう! でもでも、寝たフリを止めたらこの恥ずかしくも楽しい時間が終わっちゃうし……!


 時折ビクビクと肩を震わせながら、未だに固く目を瞑って寝たフリを続けていると、ふと動きの止まった耳元で、お兄様の声が――


「――早く目を覚まさないと、もっとすごいイタズラ、しちゃうよ?」



◇◇◇◇◇



 ぐっはあ。

 やばい。すごい。お兄様の破壊力すごい。妄想の中の私が失神した。


 紳士成分が少なめだったけど素のスペックが高いからか、何をやっても似合うのがお兄様の素晴らしい所だ。


 ビバ、お兄様。


「自信を打ち砕かれたようで、『かの御方以上に宰相に相応しい人物はいません』と聞く耳を持たなくてな……」


 今回の妄想は短めだったからか、話はそんなに進んでないっぽい。

 元の宰相さんがお兄様にどのようにしてその立場を譲ったのかという話が、今度は王様視点から語られていた。


 すごいなあお兄様は。

 学院へも普通に通いながら、本職の人にそこまで言わせるほどお仕事にも精を出してたなんて……改めて惚れ直しちゃうよ。


「……ん? となると家でロランドに書くのを手伝わせていた報告書は、王城に送られた後でロランドが決裁していたのか?」


 複雑そうな顔をしたお父様がそう問えば、お兄様はできる大人っぽく余裕のある態度で答えた。


「無いとは言いませんが、僕の仕事は実務が主ではありませんから。ああ、そうそう。父上の報告書は形式がしっかりとしていて読みやすいと好評でしたよ」


「お、そうか?」


「そうか、ではありません」


 お兄様の言葉を聞いて嬉しそうなお父様を、お母様が(たしな)めた。そして。


「ロランド」


「はい」


 まただ。またお母様が怖い雰囲気になった。


 怖いというか、厳しい感じ?

 王様に対して怒ってた時よりかは断然マシだけど、私が叱られる時によく似た雰囲気がお母様から発せられていた。


「……うるさく言うつもりはありません。貴方には貴方の考えがあるのでしょう。ただし、貴方の行い如何によってはソフィアにも累が及ぶ可能性があることを忘れないように」


「……ご忠告、しかと胸に刻みます」


 厳かに告げたお母様に、正式な礼で返すお兄様。


 ……お、おお? なんか私が叱られる時と全然違う。差別かな?


 いや、違う。これはまさか――ッ!?



 お兄様の魅力は、いつの間にかお母様まで虜にしていたというのかー!?


 さすおに(流石はお兄様)!!


「あんまり怒るとシワが増えますよ」

と頭の中だけで考えたハズが何故かバレて、しこたま怒られそう予感がするので考えない。考えてませんお母様。だから怒らないで。


と心の中で祈るソフィアちゃん。

だが母は珍しく大人しい娘の姿に、なにかを感じ取ったようだ……。

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