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余罪追求


 迂闊な王様の処刑場と化した部屋で、王様は早々に音を上げていた。

 即ち、全面降伏である。


 王様の言い訳に一定の理解は示されたものの、あの「悪魔の子」発言はよろしくなかった。


 お母様と王妃様が組んだ時点でもはや誰にも逆らうことは出来ない。


 命じられるがまま、王様は私たちへと謝り倒す結果になったのだった。ちゃんちゃん。



 ……それにしても〜。んふふ。


 私が「災いを(もたら)す者」なんて呼ばれてることを知って(かば)ってくれた時のアーサーくん、かわいかったなー♪ お母さん(王妃様)の手を握ったままカッコつけてて♪

 ここがヘレナさんの研究室だったら抱き締めてからかってあげたいくらいの愛らしさだったよ。


 あとはアーサーくんが否定してくれたその情報が、本当にデタラメだったら最高だったんだけどね……。


 残念ながら女神様のお墨付きだからなー。むしろ不確かな言い掛かりであればどれほど良かったことか。


 私の気持ちとしては、「災いを齎す者」というネーミング自体はそう悪くないとは思う。

 私が望んで災いを振りまくかのようななニュアンスは多少不本意なものの、語感自体は割と好みではあるし。少なくともリンゼちゃんに呼ばれた「汚染源」や「腐ったミカン」に比べたら万倍マシだ。ちゃんと人間として扱ってくれてるから。


 まあ、どうでもいい話だね。


「聖女ちゃんからは、何かこの人に言いたいことはない? この際なんでも言っちゃって?」


 アーサーくんの勇姿を反芻して内心キュンキュンしている間に、お母様の溜飲も少しは下がったみたいだ。今度は王妃様のお説教のターンらしい。


 といっても、王妃様は直接自分で責めるよりも、王様を抑えつつ、被害者に直接鬱憤(うっぷん)を晴らさせる方法がお好みらしい。

 結構エグかった。


「えっと……」


 目の前に連れてこられた王様は、既に威厳なんて残ってない。ただのしょんぼりしたオッサンだ。


 お母様の氷の視線に晒され続けて既にグロッキー状態な王様を見てると、普段同じ叱られる立場の私からしたら同情したくなる気持ちもある。が、それはそれとして。


 ちらりと横目でお母様の様子を伺う。


 そこには「溜飲? あの程度で下がっているとお思いで?」と言わんばかりに、未だに融けぬ氷の視線で王様を威圧し続けるお母様の姿があった。


 ……家に帰ってもお母様があの状態だったら、八つ当たりで私が叱られそうな気がする。


 身体以外はすっかり大人なソフィアちゃんだけど、他人のせいで怒られるとかはノーサンキュー。そこまで心が広くはないでーす。

 やっぱり自分の責任は自分で取るのがいい大人ってもんだと思うんだよね。うんうん。


 というわけで。


「では、あの。先程『魔法を使っていないのか』と私に確認されていた時から、何度か私に向かって魔法を使っていましたよね? あれはどういった魔法だったのですか?」


「!?」


 諦め顔から一転、驚愕の表情を浮かべた王様。そして視線の鋭さが更に増したお母様。


 いやー、悪いね王様。

 実際はどんな魔法か見当もついてるし、全然脅威でもなかったから流しても良かったんだけどさー。でもお母様の怒りはちゃんと全部引き受けてって欲しいわけ。


 じゃないと家に帰ってからの私の身が心配なので。


「陛下……? 今のソフィアの話、詳しく聞かせて頂いても?」


「アナタ……? まさか、聖女ちゃんに?」


 無表情と、笑顔の仮面。

 二人に迫られ顔色を悪くした王様が取った次なる行動は、実に意外すぎるものだった。


「いや、待て、あの……。……〜〜〜ッ! ろ、ロランド!!」


「はい、陛下」


 スッと立ち上がったお兄様が、王様を庇うような位置に移動した。


 ていうか、え? お兄様が? なんで??


 お母様と王妃様も驚いている様子。

 混乱する私たちを前に、一人落ち着いているお兄様が王様に尋ねた。


「では陛下。秘匿情報の開示許可を頂けますか?」


「それはっ! ……どうしても必要か?」


「でなければ、母上は抑えられませんね」


 目の前で堂々と交わされる内緒話。

 だがそれよりも、王様に対して妙に慣れた距離感で話すお兄様の異常さに、誰もが言葉を失っていた。


「ならばもう、全て任せる……良きにはからえ……」


「かしこまりました」


 すっごい。こんなに力無い「よきにはからえ」は初めて聞いた。

 じゃなくて。


「あの、お兄様……?」


 思わず、弱々しい声が出た。


 なにがなんだか分からない。分からないが、しかし。


 ――お兄様が、私と対峙するように立っている。


 その事実だけで、心が――。


「ソフィア」


 それでも。

 愛しいお兄様の声を聞けば、それだけで安心してしまう。


 安らいでしまう。


「ソフィアの悪いようにはしない。……僕を信じてくれないか」


「信じます」


 即答した。


 だって、お兄様だから。

 私だけの、私の大好きなお兄様が「信じて」って、言ってくれたから。


 だからもう、心配はいらない。



 お兄様はいつも通り、優しい笑みを浮かべていた。


「……アイリスがいると、俺の仕事がなくて、楽だなあ……。俺、一応メルクリス家の現当主なんだけどなあ……」

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