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王様の命令


 乱暴なのって良くないよね。

 言葉遣いも丁寧なのがベストだよね。


 でもそれはそれとして、好きな人相手にだったら乱暴にされるのもありかも……? なんて考えちゃうのも、乙女としてはごく一般的な思考だと思うの。


 そこで私、すんごい事に気付いちゃいました! あのねあのね!


 ――王様ってみんな美少女がなれば良くね?




 だが現実は非情なり。


 現実の王様は私好みの儚げな美少女などではなく、妻子持ちのヒゲヒゲおっさんなのであった。がっでむ。


「ソフィア・メルクリス。今すぐに、今使っている全ての魔法を停止せよ。これは命令である」なんて有無を言わさぬ感じで命令されちゃったわけだけどさ。

 やーん、命令されちゃったー♪ ってなれないのがマジでつらい。


 ……これ、やばくね?


 魔法使ってるのバレてるよね。バレてないとこんな言い方しないよね。


 でも今使ってる魔法は王様を害するようなものじゃなくて、フェル&エッテ用の家と繋がってる移動用アイテムボックスとか、あとは快適空間を維持するのが主目的の身体強化魔法(温度調節+防護魔法付き)くらいなもので、いわばいつも通りの基本セットだ。


 身体能力は上がってるだろうけど、別段危険なものでも無い。


 故に。


「今は特に魔法は使っていませんが……?」


 この王様は一体何を言っているのかしらん? とすっ(とぼ)けてみることにした。


 お母様が一瞬、吹き出すのを堪えたような気配を感じたがきっと気の所為だろう。


 王様の威圧感に負けることなくこの場面での正解を引き当てた私に対して褒めることはあっても、笑うだなんてそんなそんな。ははは。


 まあ王様を(たばか)るなんてさすがに勇気が必要だったけどね。


 いや、だってさあ。


 ここでバカ正直に「はい、今止めました!」って言ったとするじゃん?


 そしたら「やはりなにか企んでいたか! この不届き者めが!!」ってなる予感しかしないんだよね。実に単純なカマかけじゃないですか。


 王様の前で無断で魔法を使っちゃいけないなんてことは私だって知ってる。子供だって知ってる。王様だって勿論知ってる。


 なのにそれを改めて口にしたのは、実際に私の魔法の使用を確認しての、その脅威の排除が目的じゃあないと思うんだよね。


 本当の目的は恐らく――私が命令に従うか、試したんじゃないかな?

 他の命令なら聞いてたかもしれないけど、魔法って私の命綱だからさ。ごめんね王様。


 私の返事を聞いてもポーカーフェイスを崩さなかった王様が、再度口を開いた。


「……魔法は使っていないと。そう言うのだな?」


「はい」


 まあね。使ってるか使ってないかで言えば、使ってはいるんだけどさ。


 これは普段使いのやつだからわざわざ「使う」って認識じゃないっていうか。

 初めて使った日から永続的に効果が続いてるだけであって、効果は出てるけど魔法は使ってないというか、無意識下で勝手に使われてるだけというかなんというか……。


 とにかくそんな感じの、言わばパッシブ魔法だからね。


 呼吸して魔素を取り込む時、わざわざ「魔素を取り込む魔法を使っている」なんて表現しないでしょ? それと同じようなもんだよ。多分。


「神に誓えるか」


 ほらみろ。やっぱり確信なかった。

 全ての魔法を〜なんて言ってくる時点で私がどんな魔法を行使してるか理解出来てないと思ってたんだ。


 私の身体強化魔法はお手軽便利なオールインワン。

 全ての効果をひとつの魔法で補うハイブリッド仕様なのだ。


「神に誓います」


 にしても、王様も神なんかに誓わせて何がしたいんだろうね?


 神ってあれでしょ、リンゼちゃんが宇宙で飼ってる犬。

 リンゼちゃんのってよりはその本体である女神様の飼い犬みたいだけどね。わんわん!


「……そうか、分かった。疑って悪かったな」


「いえ」


 疑惑は晴れた。

 私は私一人の力で、無事に難局を乗りきったのだ!


 おういえー!! ヒューヒュー! よくやった私!!

 やっぱ女は度胸ですよ! なに食わぬ顔でしれーっとしとけば案外なんとかなるんだって!!


 しれーっと澄ました顔の裏では勝利の大喝采が巻き起こっていた。


 てか王様、案外チョロかったな。


 これなら王妃様相手よりかなり楽かもしれない。

 やっぱ腹の探り合いみたいなのは、女の人が相手の時の方が神経使うわ。


 ひと仕事終えた気分で達成感を堪能していると、思わぬ人から王様に追撃がかかった。


「全くです。これから聖女になろうという人物の言葉を陛下がお疑いになったと知れたら、民衆はどのような反応をするのでしょうね」


「ぐ……」


 おおおお兄様が。お兄様が攻めておられる。王様相手に喧嘩を売っていらっしゃる。


 それってまさか、もしかして。


 キャーーーーもしや私が苛められた事に怒ってくれてるんですかお兄様ーー!?

 やーん好き! だから好きですお兄様!!


 でもその人怖いのは顔だけで実は大したことなさそうなので 、あんまり危ないことしなくても平気ですよ! もっかいやったって私が勝ちますから!!


 でもそのお気持ちだけは有難く受け取らせていただきますぅー!!


叱られるのに慣れすぎていて、威圧的な態度=弱みを悟られない為の虚勢だと瞬時に見抜いたソフィアちゃん。

娘の為にとお説教をした母の想いは、望んだのとは違う形で、娘の糧になっているようだ……。

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