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案内された先は


 無我の境地っていいよね。


 慌てるとかもない。

 恥ずかしいのもない。

 なーんにもない。


 ただ、心の平穏だけがある。そんな感じ。


 唯一の欠点があるとすれば、時間の経過が曖昧になることかな?

 それも今だけは利点だったんだけどね。


 

 というわけで、ボーっとしてたら目的地に到着した模様。


 ここまでマジでお母様に手を繋がれっぱなしだった。いいけどね別に。


「この先で陛下がお待ちになられています。どうぞ」


 入室の確認を取ったあと、私たちに向けてそう告げた案内の人の言葉に、和やかだった空気が僅かな緊張感を孕んだ。


 ……けど、お母様だけは余裕そうだ。


 案内の人に「ありがとう」と言いながら、扉が開くのを待っている。


 私の手を繋ぎながら、待っているんだ。


「あの、お母様。この手はどうすれば……」


 言うべきか悩んだけど、これはさすがに言うべきだよね?


 国の一番偉い人に「任命式やるから来い」って呼び出し受けてるのに、親に手を引かれて出席はさすがに恥ずかしいよね?


 見た目だけなら騙せそうな気もするけど、私の年齢くらい知られてるよね? 私だけの問題じゃなくてこれお母様まで恥ずかしい思いしますよね? 私の考えには正当性がありますよね?


 こんな当たり前のことをお母様が気付いてないわけは無いと知りつつ、ならどんな理由があって仲良し母娘を演じていたというのか。

 私はドキドキしながら、お母様の答えを待った。


「あ、そうですね。そろそろ離しましょうか。名残惜しいですが」


 しっかりと掴まれていた手は、特に理由もなく簡単に解放された。


 ……名残惜しいんだってさ。私と手を離すのが。


 たっぷり堪能できたようでなによりですね。その分私は王様に会う前から大分疲れてきましたけどね。


 もう帰りたい。


 精神的疲労から思わず浮かんだそんな願望が叶うはずもなく、いつの間にか開いていた扉の向こう側には王様の他にも王妃様やらヒース様やら、王族御一家がソファでくつろいでいらっしゃいました。


 だよねー。そーだよねー。

 いわゆる謁見の間にしては扉ちっちゃ! って思ってたんだ。


 ……秘密の相談をする部屋、といったところかな?


 部屋のほとんどをソファとテーブルが占めていて、余分なスペースが全然ない。必然、お互いが座れば、上司と部下が話す場としてはあまりにも距離が近くなる。


 悪巧みとかに最適な部屋だなここ。


 と失礼な思考はさておき。

 王様と特に親しくもない私がこんな場所に通されるということは、また私の知らないうちにお母様が手を回してくれたのだろう。


 家族全員が着いて来る気恥しさをどーしたものかと心配してたけど、王様の方も家族総出という気遣いもしてくれて、ホント助かるね。


 王様もいつも社交界で見る時みたいな怖そうなオーラとか全然ないし。王妃様と手を繋いでる様なんかまるで娯楽室で居眠りしちゃった私を見守ってる時のお父様みたいに優しげな雰囲気だし。


 なんか頑張れる気がしてきた。


 緊張の理由が一つ取り払われ、内心で胸を撫で下ろしていると、


「ソフィア、久しぶりだな」


 と王様似のイケメンが声を掛けてきた。


 誰だコイツと思うなかれ。

 僅か数ヶ月で身長がふざけんなってくらい伸びててイケメン度にも磨きがかかってるけど、視線を交わしたらすぐに分かった。


「ヒースクリフ様。ご無沙汰しております」


 クラスメイト……いや、元クラスメイトかな? ん? よく分かんないな。


 とにかく、同クラだったヒースクリフ王子様である。

 ぶっちゃけ私の天敵ね。


 この人とも結構久しぶりだなー。

 学院で告白断ってからこの人、何故か王子様でありながら授業をちょくちょくサボり出すようになってさ。

 しかもあろうことか、急に休みが増えだしたことに疑問を持った子が「公務が忙しい」との事情を聞き出した次の日からぱったり来なくなったりしたもんだから、あの子ってば「私が何か気に障ることを聞いてしまったのでしょうか!?」なんてパニクって大変だったんだからね。


 その後誤解は解けたらしいけど……女の子泣かす子には厳しいよ私は。王子様だろうと容赦はしないよ。


 ……という、気概はある。それは事実ではある。


 ……でもなぁ。

 この王子様相手だとなぜか、私の被害の方が大きくなるんだよなぁ……。正直関わりたくないんだよなぁ……。

 

 完全に苦手意識が植え付けられていた。


「この度聖女になると聞いていたが、いやはや。君には本当に驚かされる。今の君が女神だと言われても僕は疑い無く信じてしまうだろうね」


「ヒースの言う通りだわ。本当に綺麗。とてもよく似合っているわよ聖女ちゃん。うふふ」


「ありがとうございます。恐縮です」


 ああ服ね、はいはい服ね。

 この愛らしい(恥ずかしい)子供服を褒めて頂いて大変ありがとうございますあはははは。


 晒し者つれぇわ。


ソフィアは緊張を誤魔化すため、余分な思考を開始した!

ソフィアは恥ずかしさを誤魔化すため、過去の記憶を反芻した!

だが止められてしまった!だが現実に戻されてしまった!!

逃げられない!逃げられない!!

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