メルクリス家、参城!
結局、ヘレナさんの魔法の秘密は分からなかった。
途中からリンゼちゃんとじゃれるのに夢中になってて、考え事してたの忘れて寝ちゃっただけなんだけどね。
リンゼちゃんは魔性の女ですわぁ。
私の心を掴んでマジ離さないんだわー。
……なんて、現実逃避してても始まらないよね。
諦めと共に現実へと目を向ければ、眼前にそびえ立つのはまるで国中の一流建築家たちが歴史上で最高の建築物を造るという目的の元に一致団結し、長い年月と情熱の元に完成させた巨大芸術作品とでも評すべき美しさと威容を兼ね備えた、まるでお城みたいな……みたいな……。
……まあ、お城だった。
アーサーくんの家にお呼ばれしちゃったー♪ みたいなノリで妄想しとけば多少は気分も上がるかと思ったけど……やっぱこれ、家の大きさじゃねーわ。
とにかくでかい。でかくてすごい。
でかいってのはそれだけで人を萎縮させるよね。
……小さすぎるのも、困りものだけどさ。
「……何度来ても慣れない」
もっとも、王様に呼び出される事態なんて慣れたくもないが。
それでも今回は比較的、気が楽でもある。
なんたって今日は王都在住メルクリス家の家族総出での参城なのである。
――本日のメイン、なぜか王様直々に聖女認定を受ける事になったこの私と。
――王様から直接、私を連れてくる指令を受け取ったお父様と。
――何故かその指令の中に「ソフィアと共に連れて来るように」と名指しで指名されていたお兄様と。
――「ソフィアから目を離すと何をしでかすか心配でたまらない」という理由で、呼ばれてもいないのに着いて来たお母様。
最後の人なんかおかしいよね。
あんまりな理由に反射的に文句を言いたくはなるけど、正直なところお母様が私を見張っていてくれると言うのなら、それに優る安心はない。
私ってトラブルを引き寄せる体質な気がするんだよね。
何か変なことをしている訳でもないのに剣姫様やら剣聖様やらから難癖つけられて暴力振るわれたりするし。幼馴染はトラブルメーカーだし。友人もトラブルメーカーだし。あと変態に遭ったりとか?
お母様さえいれば大半の問題は丸投げできる。
後でお説教はもらうかもしれないけど、面倒な問題を全部お説教に変換できると思えば安いものだ。お母様バンザイ。
「ソフィア、もう少し気を引き締めなさい」
「はい」
さーせん。
お母様とお兄様と一緒にいるとつい安心しきっちゃうんだよね。攻守に万全な体制で何があっても安全だと確信できるっていうか。
お父様も安心できるっちゃできるんだけど、どちらかというと……うーん、変わらない日常の象徴みたいな感じかな?
お父様は癒し枠だね。
「ああ……今日のソフィアは一段と可愛いな……。まるで天使の様だ……」
「父上も、もう少しシャキッとしてください」
……うん。紛うことなき癒し枠だ。
とはいえ別に、あの親バカ発言は久々に娘と外出できたお父様が幸せのあまりバグったわけじゃない。……はずだ。
そりゃあ天使にも見えるでしょうよって。
こんなに真っ白でふりふりひらひらなベビードールみたいな服……人とすれ違う度に微笑ましく見られるの結構恥ずかしい。
つーか我ながら完璧に似合ってるのが癪だ。完全に子供服じゃないかこんなの。
今日の為に、お父様がずっと前から用意してたって言うから渋々着たけど……この服の趣味、絶対お母様だよね。
お父様がこんなの選ぶわけない。サイズだって完璧だし。
そういえば今日はお母様の視線をやたら感じたような気もしないでもない。
……あれ? ってことはもしかして、王城に入った時からずっと手を握ってて離してくれなかったこれは「勝手にどっか行かないように」って捕まえてる訳じゃなくて、「私の選んだ服を着た可愛い娘と一緒に」なんてお可愛い理由で仲良くおてて繋いでたりするわけ?
じゃあじゃあ、さっきまで私が恥ずかしいながらも我慢していた「あら〜お母様と仲良くおてて繋いで良かったわね〜」なあの視線は誤解でもなんでもなく、むしろ真理をついていて、その事実に気付いていなかったのは滑稽な私ただ一人だけってことかい? ホントに?
……もうこれ以上考えんのやめよ。
怒るにせよ恥じるにせよ、これ以上ほっぺた赤くして歩いてたらまた「あらあらうふふ」されてしまう。
私の心は今、無になった。
礼服の家族に囲まれて一人だけコスプレ衣装着てたってもう何も感じない。
通り過ぎた妙齢の女性がジッとこちらを見ているのに気付いてたって何も感じないのだ。
チーン。
もしも学院に授業参観とかあったらソフィアの家族だけ全員来そう。
両親+兄どころか嫁いだ姉まで無理やり来そう。
……仲が良いって素晴らしいことだね!




