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満を持して……いざ!


「ヘレナさん。起きてください」


「ん……」


 ぼんやりしているヘレナさんの手を触り、触覚に刺激を与えることで覚醒を促す。



 催眠はいい感じに成功した。


 ブランクはあったけど問題なくヘレナさんの不安を取り除いて初心を取り戻させることが出来たから、これで魔法を使うための障害はなくなったはず。


 早速試してみよう!


「じゃあ、やってみるわね」


 これで成功間違いなし! とソフィアちゃん印の太鼓判を押したからか、はたまた催眠で「成功するわけない」という弱気の虫を退治したからか。

 ヘレナさんは自慢のオモチャを披露する子供のように嬉しそうな顔で、右手を突き出した。


 たしかヘレナさんの魔法は、魔力の質を良くして効果の高い魔法を使えるように、ってやつだったよね。


 魔法自体を強力にしちゃわないのは研究者らしいというか、若干回りくどいかな〜と思わなくもないけど、本当にそんな効果の魔法が自由に使えるようになれば汎用性の高さは群を抜いている。


 全ての魔法を強化できるって物凄いことだと思う。


 ……ヘレナさんってやっぱり天才なんじゃない?

 これはお母様と並んで「強化の魔女」とか呼ばれる日も近いかもしれないね。


 気付けばネムちゃんたちもヘレナさんに注目してる。


 よし。それじゃあ私も魔力視で、ヘレナさんの魔法の秘密を……と魔力が集まっているだろう右腕に視線を向けた。


 魔力の質を、ねえ。


 私も他人に魔力操作を見破られないように普通の魔力を魔力視でも見え難いのに変換して使ってるけど、性能の良い魔力をって発想は無かったな。


 でも魔力の変換なんてそう簡単なもんじゃないし。

 認識が違うだけで、実際は普通の強化魔法かもね? とか思ってたけど、全然違った。まるで違った。


 魔力視で見た魔力って普通、明るく発光して見えるんだけど……ヘレナさんの手に集まってるの、なんか、黒い。黒いっていうか、暗い? なにあれ?


「……ッ!? ふぁもふぁも!」


 ネムちゃんも驚きに目を見開いて、なんかふもふも言ってるし。


 何食べてんだろあれ、カップケーキ?

 ネムちゃん連れてきたのは予定外だったはずなのに、シャルマさんはどこからこれだけのお菓子調達してきてんだろ。謎だ。


 って、そうじゃない。今はそっちの謎よりも。


「……ん〜〜〜っっ」


 力むヘレナさんの声に呼応して、手に集まる暗い魔力が増えてきた。


 暗い魔力が少しずつ増えていくにつれてヘレナさんの身体からは徐々に魔力の輝きが薄まっていくのが分かる。


 その光景はまるで、暗い魔力が、ヘレナさんの身体から命の輝きを奪っているようにも見えて。


「……。ヘレナさ」


「はあっ!!」


 思わず声を掛けたのと同時、裂帛の気合と共にヘレナさんの手が突き出され――……しかし、何も起こらなかった。


 もう一度言おうか。


 あんなに威勢の良い声を上げておきながら、何も起こらなかったんだ。恥ずかしいね。


 いや、全く何も変化がなかったわけじゃない。


 ヘレナさんの手に集まっていた暗い魔力は徐々にその体積を減らしていき、元の輝かしい魔力へと姿を変えている真っ最中ではある。


 でもこれ絶対そーゆー魔法じゃないよね。今の、失敗だよね?


「……あの、ヘレナ様」


「いいの。大丈夫よシャルマ。今までだって失敗していたじゃない。今日もまた失敗した、ただそれだけの話よ」


 (あるじ)(おもんばか)った従者に気丈な態度で返すヘレナさんの姿に、私は感動したね。

 だって私の側からだとヘレナさんの目の端に涙が浮かんでるの見えちゃってるんだもん。


 いやー美しき主従愛、よきかなよきかな。

 私のリンゼちゃんもシャルマさんくらいに優しくなってくれたらいいんだけどなー。なんならシャルマさんもうちのメイドさんになってくれないかなー? なーんてね! はっはっはー。


 ……いや、ゴメンて。そんな落ち込まないでよヘレナさん。


 私だって百パー成功するとは思ってなかったけど、でも失敗するにしたってもうちょっと見た目的に「惜しかったなー」って分かるような失敗の仕方すると思ってたんだよ。あんだけ異様な魔力生成しといて失敗とか読めませんて。


 だって……ねぇ? 雰囲気だけなら完璧に成功する流れだったでしょ今の。


 失敗の原因を特定するにしても、あの変な魔力がなんなのか分からないことには、どーにも……。


 何が悪かったのか、どう改善すれば良いのかと頭を悩ませていると、落ち込みかけた空気を吹き消す純粋にして無垢な声が部屋に響いた。


「ねー、ヘレナはなんで魔法使わなかったの?」


「え?」


 驚くヘレナさんに、ネムちゃんは続けて。


「さっきの、面白い魔法が見れると思ったのに。なんで途中で止めちゃったの?」


 本当にそれだけが疑問なのだと言うように、不思議そうに問いかけていた。


 魔法を使わなかった? 途中で止めた?


 確かに失敗した後の魔力の散り方は魔法を発動直前でキャンセルした時の動きに似ていたけれど……。


 いや、そうか。そういうことか。


 ネムちゃんの言葉で失敗の理由に見当がついた。


 ネムちゃんはやっぱり天才だね!


「メイドにはメイドの繋がりというものがありまして。私の作るお菓子は皆様からご好評頂いていますのでいつも多めにご用意しているのに加え、困った時には助けてくれるお友達も多いのです。お嬢様が数人増えた程度でお菓子を切らすことは無いのでご安心ください」

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