部屋の模様替えをしよう
感性とは個性である。
何が好きで、何が嫌いか。
何を美しいと思い、何に憧れるのか。
それは人の成長と共にあり、変わりゆくもの。
それは、他人に脅かされてはならない、その人だけの、特別な想い。
――なんてのは理想ですらない。
変だ! と思ったら、変だ! と叫ぶことだって個性だ。そこに私が口を挟むことは出来ない。
何を考えようと自由だけど発言の自由まで認められてはいないよ!? とも思ったけど、それは日本の法律の元で育ったから根付いている考え方であって、此処では私が異端である。
個性はあるだろう。
だけど、違う社会で育った人間がポンと入ったら浮くのは当然だ。個性以前の問題。
つまり私が変なのは当たり前だ。
変だから変なんじゃない。周りと違うから変に見えるだけ。
そう、私は変じゃない。変じゃないんだよー。
よし、自己暗示完了。
子供の言葉に翻弄されるなんてわたしもまだまだ修行が足りないね。今度は自己暗示も魔法的に研究してみようか。
でも今からするのはそれじゃない。
大掃除だ。
部屋の模様替えを敢行する。これは決定事項だ。
マーレ達姉妹と本の貸し借りと雑談を一通り楽しんで帰した後、片付けをしてくれていたメイドにさり気なく私の部屋の印象を聞いてみたところ。
「ソフィア様らしくて素敵ですよね」
「見たことの無いものが増えていくのが楽しみなんです」
と大変暖かいお言葉を頂いた。
「憧れる」「欲しい」と言った言葉が出ないことから流石に察した。
やっぱり変だと思ってたんだとね!! 気付いていたなら言って欲しかった!
まさかメイドさん達にまでそんなふうに思われていたなんてねー。
なんかなー、いいのかなー。
貴族家のお嬢様が変な趣味っていいのかなー。
思えばお母様がよく変わってると言っていたのは遠回しに貴女の趣味変ですよと伝えたかったのかも知れない。
お姉様は全肯定だし、お兄様も私を傷つけるようなことは言わないし、メイド達なんか余計言えないだろうけど。
ま、過ぎたことは仕方ない。
でも過ぎてないことは対処する。恥の上塗りとかしたくないし。
差し当って、我が家の常識人枠からお兄様と、友達が多くて流行もセンスもバッチリなお姉様を援軍に呼んである。体制は万全だ。
「それではお姉様、お兄様。私の部屋にある物で、一般的な女の子に相応しくない物があったら教えてください」
一応、部屋の物で変と言われそうなものもそのままにしてある。
私が変だと思っても、逆に普通な物があるかもしれないからね。
「ねえソフィア、本当にいいの? 教えたら、お姉ちゃんのこと嫌いになったりしない?」
「しません!」
「僕は女の子の部屋のことは分からないけど」
「構いません! 男の人目線で、女の子の部屋にあったら嫌な物を教えて頂くだけでもいいんです! これを放置してはメルクリス家の恥になるかもしれませんので厳しめでお願いします!」
「分かったよ」
そう、私の恥だけでは済まない。
自分が好き勝手やるだけならいいけど、もしも私のセンスがオカシイと貴族の間で噂にでもなってメルクリス家が笑いものになどなったりしたら申し訳が立たない。それだけは阻止せねば。
「じゃあ早速だけど、なんで部屋にタライを常備してるの? あとあのちっちゃい扉なに?」
「姉さん、現実から目を背けちゃダメだよ。部屋の隅を占有してるゴチャゴチャくっついた鎧が一番でしょ。存在感すごいよ」
出るわ出るわ、スラスラと。
お姉様が指摘した扉は神棚のことだ。別世界にまで来て同じ神様がいるとも思わないけど、偶に神頼みしたくなった時に、普段敬いもしてない神様に祈っても効果がなさそうだから作った。
タライは主に水魔法の練習用だ。
お兄様の方は指摘されると思ってた。
でもお姉様ならともかく、お兄様に言われるとは。
男の子の夢を詰め込んだと自負する自慢の戦乙女の外観をゴチャゴチャとか。どれのことだ。調子に乗ってつけた勲章か? 革ベルト? まさかマントまでダメとは言うまいな。
「あとこれとかも。ゴミじゃないんでしょ? よくわかんないけど」
「ソフィア、ベッドの天蓋は荷物置き場じゃないんだよ。整理整頓はキチンとすべきだと思う」
おおう、なんだなんだ、そんなにか。
どうやら認識のズレはかなり大きいみたいだ。
メイド1「あの竹、ゴミにしか見えないけど踏むと気持ちいいのよね」
メイド2「知ってる。天蓋の上に置いてあるヒカリゴケも昼はただの土くれなのに、夜に見ると結構綺麗なのよね」