ネムちゃんの解答
親切心が悪い結果を呼び込んじゃうこと、あるよね。
地雷踏んでごめんねヘレナさん。
そんなつもりじゃなかったんだけど、言い訳だよね。
ヘレナさんってば私やお母様に「天才」ってレッテル貼って劣等感抱いてるみたいだから、これ以上下手なことを言うと余計な怒りを買いかねない。
だから、ネムちゃんに任せようと思います!
ネムちゃんは私から見たら紛うことなき天才だけど、ヘレナさん基準ではまだそのカテゴリには入っていない……はず! 多分!
大丈夫、ネムちゃんならきっといい感じにヘレナさんを慰めてくれるはず。
ただお菓子を食べてるだけで見ている人を幸せな気分にさせてくれちゃうネムちゃんなら、落ち込んでる人を元気にするくらい朝飯前なはずだ!
――そんな風に思ってたこともありました。
「……? ヘレナ、自分で作った魔法なのに使えないの? なんで?」
素直さって凶器だよね。
おべっかで地雷踏み抜くのとどっちがマシなのかな。
ネムちゃんの言葉の凶器によってヘレナさんは再起不能になるかと思われたが、流石は独身コンプレックスに長年耐え続けてきた鋼の精神を持つ女。口元を引くつかせるだけで耐えきっていた。
子供の素直な疑問に逆上しない大人の余裕。
ヘレナさん、とってもカッコイイよ……!
「……あのね、ネフィリムさん。自分で作ったものだとか、そういうのは関係ないのよ」
ヘレナさんはネムちゃんの雰囲気に釣られて先生モードに入ったようで、優しく言い聞かせるような口調に変わっている。
良かった、これで少しは安心出来る。
研究者モードのヘレナさんはなんか、必死さが前面に出過ぎてて怖いんだよね。
最初に無遠慮な言葉を投げかけた時にはどうなることかと思ったけど、ネムちゃんに任せた私の目に狂いは無かったようだ。
ま、当然だけどね! ネムちゃんのいい子パワーに逆らえるネガティブなんてあるわけないない!
「ネフィリムさんだって『こんなことができる魔法があったらいいな』と考えることはあっても、実際にそんな魔法を作ることは出来ないでしょう? 自分が欲しいと考えた魔法を全て実現できるのなんて、きっと女神様くらいのものだわ」
「んー……」
ネムちゃんに言い聞かせるように優しく語りかけるヘレナさん。
納得していないような反応をしたネムちゃんがこちらを振り向く気配を敏感に察知した私は、素早く顔を背けて口笛を吹く真似をすることで「え? 今の話? ごめん全然聞いてなかった。でも私に関係の無い話だよね」という雰囲気を出して、何も知らない無知な少女を演じてみた。
……私が女神様以上に好き勝手な魔法作ってると知られたら、ヘレナさん発狂しそうだな。
ネムちゃんどうかお口にチャックを。
分かるよね? ヘレナさんが求めてる答えは単なる肯定。
ネムちゃんが「そーなんだね!」って理知的な教師を尊敬する目で一言いうだけで、みんなハッピーな結末を迎えることができるんだ。
言わなくていいこと暴露してアンハッピーにはさせないでね?
「でも先生は、色んな魔法教えてくれるよ?」
果たして、私の願いは叶えられた。アンハッピーは避けられた。
そーいやあの人も好き勝手に魔法作っちゃう人だったね。
「先生? ああ、アドラス様のことね。それはきっと、ネフィリムさんの知らない魔法を教えてくれているのでしょう。彼は魔族に詳しいみたいだから、私たちの知らない失伝した魔法を知っていたとしても不思議ではないわ」
ビバ勘違い。勘違いってステキ。
私だって詳しく知ってるわけじゃないけど、ネムちゃんが教わってるのって例の催眠だか洗脳だかみたいなヤバげな魔法とか、あとは私の感知魔法すり抜けたやつとかでしょ。
あんなのが善良な魔族に伝わってる魔法なわけないよね。
そもそもヘレナさんの目の前にいるネムちゃんこそが魔族の生き残りの一員なわけで、魔族的に普通な魔法は既に使えるんじゃないかなーって気はする。初級魔法の威力とかおかしいし。
……でも、そっか。ヘレナさん、ネムちゃんが魔族だって知らないんだよね。
もしネムちゃんに私の魔法のことをバラされて、そのせいでヘレナさんが暴走して襲ってきたりしても、ネムちゃんを生贄にすれば助かりそうだね? なーんてことを考えている間に。
「でもヘレナだって、自分で考えた魔法、使えたことあるんでしょ? なら使えなくなったのは努力不足なんだよ?」
ネムちゃんがヘレナさんに向かって、説教じみたことを始めていた。
まさかネムちゃんがそんなことを言い出すとは思っていなかったのか、ヘレナさんがびっくりしてる。私もびっくりしてる。
「『出来ない理由を探すようになったら、魔法は絶対に使えない』って、先生言ってたよ?」
ていうか、ガチ説教だこれ。
授業でお世話になってる先生相手にガチ説教……うわあ。
ネムちゃんすごいわ。
大人だって、先生だって、知らないことはあるんです。悩むことだってあるんです。
そしてその「正解」を、子供が諭してくれることもある。
人生なんてそんなもんです。




