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暴かれた賢者の真実


 かつて、この世界に写真が無いことを嘆いた少女がいた。


 幼い頃の私である。


 前世では誰でも必携の万能ツール「スマホ」で好きな時に好きなだけパシャリと撮っては後で見返したりして楽しんだものだけれど、この世界にそんな便利な道具はない。


 だがしかし。この世界にはスマホが無くとも、魔法があった。


 時間を掛けて明晰夢並みの理想を思い描くことさえ出来れば、どんな道具よりも便利で万能な魔法があった。



 だから、見せてやったのだ。

 私の知る変態(おっさん)がどれだけ変態なのかを。


 ヘレナさんの憧れる賢者様とやらは空想の産物で、現実の男ってのはそんなに綺麗なものじゃないんだってことを。


 過去を糧に成長する超優秀な女の子ソフィアちゃんの、記憶を映像化する魔法によってね!


「すごい! すごい!! ソフィアすごい!! これどうやってやるの!!?」


「はー…………」


 中空に浮かび上がった映像が、床に這いつくばった男の姿を写し出す。


 背中に乗ったうさぎのぬいぐるみがとてもシュールだ。


「あっ、メリーだ! あっ、頭叩かれてる! あはははは!」


 この作戦、ネムちゃんには大好評のようで、映像の中のメリーを真似するようにおっさんの頭を叩こうとしては手が映像をすり抜けるのを見て、また「あはははは!」と笑いながら何度も同じ動作を繰り返していた。楽しそうでなによりである。


 そして本命。

 賢者という大層な肩書きを持った変態のアブノーマルな趣味を目の当たりにしたヘレナさんの反応はと言うと――。


「……なに、これは?」


 信じられない、と驚きのあまり身を震わせていた。


 ふふふ、そうでしょう。そうでしょうとも。


 賢者だなんだと祭り上げられていようが、所詮は世渡りの上手い変態に過ぎない。


 余人の目が届かない個室ではぬいぐるみにお仕置きされて喜んでいたり、だまくらかして弟子にした少女に首輪を付けて悦に浸る、ゲスな男なのである。


 ヘレナさんが目を覚ましてくれて良かった。


 年の割に乙女チックな結婚願望があるヘレナさんが騙されて餌食になる前に止められたことを、私は誇りに思う。


 私の親しい人に近付くおっさんとかいらない。


 せめてリチャード先生くらいのイケメンになってから出直して来いって感じである。


「ソフィアちゃん……これはなに!?」


 やっぱ顔って大事だよね……神様って残酷……と世の不平等を嘆いていたら、驚きが閾値を超えたヘレナさんに肩をガッされた。


 これ、と指さされた映像の中のおっさんは四つん這いスタイルから土下座スタイルへと華麗なる転身を遂げている。


 そんなポーズで崇めているのは勿論、我が家のメリーちゃんである。


「これが、【探究】の賢者と呼ばれる人の真実です」


 真実は時に残酷なもの。

 信じ難いかもしれないけどこれ、現実なのよね。


 私はヘレナさんの為に、心を鬼にして真実を告げた。


 ヘレナさん。どうか受け入れて欲しい。

 私から見たら笑えるだけのこの映像も、ヘレナさんからしたら憧れの有名人の信じたくない一面なんでしょう。


 でも、これが本当の……。


「いやそうじゃなくて!」


 あれ。なんか違ったらしい。


 そうじゃなくて! こっち! と言わんばかりに主張する指先の示す先をより正確に辿ってみると、なるほど。


 ヘレナさんが指さしているのは偉そうにしているメリーの方だった。


 なるほど。そうね。


 ヘレナさんが無条件で降伏しちゃう賢者とか呼ばれてる人をひれ伏させる存在。気になるのは至極当然のことだね。


 よろしい。知りたいならば教えましょう。


「あれは我が家のメリーちゃんです」


 自慢の娘みたいなもんです。


 もっと褒めてくれてもいいのよ? とちょっぴり期待して紹介したら、再度肩をガッされた。

 あれ、ちょっと痛いですよヘレナさん。


「なんでぬいぐるみが動いてるのよ!?」


 あ、そっちね。


 それは勿論、メリーがそーゆー娘だからなんだけど……ヘレナさんには言ってなかったかもしれないね!


 これは盲点だった。

 さてどう説明したものかと頭を悩ませていると、掴まれていた肩が、今度は前後に激しく揺さぶられる。


 あの、あまり乱暴にしないで?


「あと! これ! 浮かんでるの! なによこれ!? これもソフィアちゃんの新しい魔法なの!?」


 ああ、映像? それはほら、私の記憶を元に光がどうとかで立体映像風に……いわゆるテレビみたいな、ってテレビじゃ分からないか。えーと……。


「そもそも!!」


 ガックンガックンと揺さぶられる。


 や、やめて、酔う。酔っちゃうから。

 さっきしこたま食べたお菓子がリバースしちゃうから揺らすの止めて!!


「ソフィアちゃんのオリジナルの魔法はあのアイテムボックスってやつじゃなかったの!? なんでいくつも変な魔法を使えるのよ!?」


「あ、あの、あの」


 やっ……ばい。出る。出ちゃう。飲みすぎた紅茶が逆流してる。もう喉元までせり上がってきてる。


 このままじゃ私、ゲロ娘になっちゃう!


「ちゃんと説明してよね!? ねえ、聞いてる!?」


「うっ、うぐぅ」


 わ、分かったからその手を早く離してくれーー!!


耐刃、耐衝撃の機能を持ったソフィアの防護魔法でも防げない攻撃、それが揺さぶり。

なんでも敬愛する存在からのなでなでを全身であますことなく堪能するために、あえて防いでいないのだとか。

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