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研究者って人種は怖いよ


 ネムちゃんが賢者の弟子っての、あんまり知ってる人いないみたいなんだよね。お母様も初めて聞いた時には驚いてたし。


 でもヘレナさんは私たちの授業を受け持ってるし、実際にネムちゃんの魔法の才能が突出してるのを目の当たりにもしている。


 片方が賢者の娘なら、もう片方も賢者の関係者と考えるのは自然だと思うんだけどなー。


「へー、あの偏屈で有名な【探究】の賢者に弟子がねぇ……」


 少なくともヘレナさんにとっては、【探究】の賢者に弟子がいる、というのは意外な事実であるようだった。


「弟子です」


 そんなネムちゃんはヘレナさんの露骨な視線を受けても平然としていて、どころか微妙に変なキメ顔で返していた。ヘレナさんは突飛なネムちゃんの行動に慣れていないので面白いくらい狼狽(うろた)えてた。


 うーん、この二人は相性が良い……と言っていいんだろうか。


 このままだとヘレナさんがネムちゃんに苦手意識持ちそう。

 一応フォローしておくか。


「ネムちゃんの発想力はすごいんですよ? 私も新しい魔法の着想を得たことがあるくらいで」


 とりあえずはヘレナさんが食いつきそうな話題で様子見。


 あれはより正確に言うなら、ネムちゃんの発想ではなくその師匠である賢者の発想が元になっている。

 つまり賢者のオリジナルをパクったとも言えるんだけど、パクったのは発想だけなので何も問題は無い。ネムちゃんの魔法がとんでも発想力から生み出されてるのも事実だしね。


「「新しい魔法!?」」


 うわぅ、びっくりした。

 ヘレナさんどころかネムちゃんまで釣れちゃった。


 ていうか食いつかれる部分が思ってたのと違う。


「どんなのどんなの? ねえどんな魔法!?」


「ソフィアちゃんそんなことまでやってたの!? しかもその口振り、既に実用段階なのね!?」


 ……あれ?

 ネムちゃんのは純粋な好奇心から出た言葉って分かるけど、ヘレナさんのは……あれ?


 ひょっとして、ヘレナさんの前では既存の魔法しか使ったこと無かったっけ?


「えっと……ちょっと落ち着きません?」


「落ち着けるものですか!! いつ? 一体いつからそんなことが出来るようになっていたの? これってアイリスは知っているのよね!?」


 うわあい、ヘレナさんが暴走した。ネムちゃん引かせるとかどんだけマジなの。


「お母様は、もちろん……。あの、詳しい内容は、お母様に相談してからでないと……」


 とにかく勢いがすごくて怖い。


 このままではとって食われそうなので、とりあえずはお母様をストッパーにして落ち着いてもらおうとそんな事を言ってみたけれど。


 私はどうやら、研究者ってやつを甘く見ていたようだ。


「アイリス!? アイリスが許せば教えてくれるのね!? ちょっとそこで待っていなさい!」


 言うが早いか、机に飛びついて何かを書き始めたんだから驚いた。


 あれお母様に確認する為の手紙でしょ? 勘弁してよね。


 えっ、今から確認するの? って感想を抱いた次の瞬間にはお母様に「軽々しく口外するの禁止」と指令を受けていたことを思い出して、自分の迂闊さを呪う羽目になったしね。


 ヘレナさんはお母様の友人だし、うっかり口を滑らしちゃったことを怒られる対象ではない……といいなあ……。


 …………やっぱり無理かな?


 一応抵抗はしておこう。


「あの、お母様に連絡するのもいいのですが……。ヘレナさんは今、例の研究で忙しいのでは?」


「うっ!」


 あ、効いてる。


 お母様も私の魔法の研究をしてる間は他の研究ほったらかしにするくらいの勢いだったから、同時進行なんて出来ないんじゃないかと思ってたんだ。

 ましてや援助を打ち切られた研究を自腹で引き継いでやってる最中なんて、とても余所事に構ってる暇ないよね。


 ヘレナさんは動きを止めたペンを握り締めて苦悩するように眉間に皺を寄せていたが、やがて絞り出すようにしてシャルマさんに確認の言葉を投げた。


「……シャルマ」


「はい。確認されるまでもなく、余分な予算は一切ありませんね」


「くううっ!!」


 うーわ、悔しそー。


 やっぱり研究ってお金かかるんだね。

 好きな事を好きなだけできないなんてストレス溜まりそう。私にはとても真似できないな。


 でもヘレナさんは大人だから、ちゃんと損得勘定できるよね?


 大人しく私の件は諦めて、そのまま手紙を出すのも中止して貰えると、私としては大変助かるんだけど。どうかなー?


「ソフィアちゃんの魔法、気になる。とっても、とーっても気になるけどっ、ああっ! でも今は転送の魔法陣に全力で舵を切ってたから、余力が……予算が……お金がぁ……」


 シャルマさんに厳しい現実を突きつけられたヘレナさんは、崩れ落ちるようにして机にへばりついていた。


 貴族の娘だろうとお金の悩みはあるんだねえ。


 私もヘレナさんみたいにお金で困らないように、今からきちんと備えとこっと。


反面教師を得て、ソフィアは益々したたかになっていく。

来る度にお菓子をパクついてる自分を省みたりなどしない。

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