幼馴染の妹と遊ぼう
「ふんふんふーん」
今日はくまのぬいぐるみのマリーと遊んでいた。
マリーで、ではない。マリーと、である。
その秘密はこれだ。
(ご主人様は物知りでーすごいですー)
頭の中に響く舌っ足らずな声。
読心の魔法である。
いつの間にか心を持っていたぬいぐるみ、メリーとマリー。
フェレット達が生きる為とはいえ悪意なんて危なそうなものを持ち続けてることが心配で、つい優しく接してしまう。
彼女たちの心はいつだって、『ご主人様と一緒にいたい』か『クソ新入りにいつか復讐を』だけだ。
なおクソ新入りとはフェルとエッテのことらしい。
仲の良くない二体と二匹だが、どちらもかわいい私の家族だ。
平等に愛を振りまけるのは私しかいないからね!
たっぷりと愛を注いであげよう!
だがいつの間にか遊ぶのに夢中になっていたらしい。
マーレが妹を連れてやってきた。約束の時間になっていたみたいだ。
マーレは私の友人の一人である。
六歳になった年の冬、子供を紹介しあうパーティで出会い仲良くなったインドア仲間。
遊びたい盛りの子供が元気に駆け回る中、一人静かに座っていたのが印象に残っている。
「やっほーソフィア、遊びに来たよ」
「いらっしゃいマーレ。そちらが自慢の妹さん?」
マーレの後ろには、落ち着きなく辺りを見回す少女がいた。
「うん、連れてきちゃった。ノア、ご挨拶は?」
「ノアです! よんさいです!」
うん、それはピースだ。
貴族社会では親しい家を回って礼儀の練習をする習慣がある。
上手に出来たら褒めてあげることで自信を付けさせ、立派な紳士淑女になっていくのだ。
これはちょっと拙いけど、人の成長速度はそれぞれだもんね。
「きちんとご挨拶ができて偉いですね。私はソフィアと申します。よろしくね、ノアちゃん」
「ソフィアちゃん綺麗だね!」
ソフィアちゃんときたか。いやうん、私、小さいからね。でも君のお姉様と同い年なんだ、ごめんね?
「ちょっと、ノア!」
「あら、褒めてくれてありがとう」
でも、これが普通の子供だよね。私の四歳時代はどうだったかな?
少なくとも、言葉が話せるようになってからは自分の年齢なんか気にせず普通に会話をこなしていた気がする。
……なんだか猛烈に両親とお兄様に謝りたくなってきた。変な子供でごめんね、御三方。
お姉様は私の全てを受け入れそうだから除外。
実際「ソフィアは天才ね!」ってよく言ってたし。アレって話の内容に対する称賛じゃなくて流暢に会話できることを褒めてたのかもね。そら天才だわー。
心の中で詫びたり過去の反省をしたりしつつ、二人を部屋に招いた。
そういえば以前、お姉様の部屋にミランダ様が来た時に案外緩い喋り方するんだなと思ったけど、逆の立場になって分かった。
友達の前で自分だけ気取るのって、恥ずいし疲れる。
ノアちゃんには悪いけど普段通りにさせてもらおう。
「ソフィアちゃんの部屋、変!」
「――え?」
と思ったのも束の間、不意に響いた幼い声に、私の頭は真っ白になった。
「こら! ソフィア様でしょ!」
マーレが妹を叱る声がどこか遠くに聞こえる。って、叱るとこまずそこなの。
でも、変? 変か。
私の趣味を詰め込んだこの部屋は変なのか。
「それにこーゆーのは変じゃなくて、個性的とか言うのよ」
それ褒め言葉じゃないやつ。
マーレ、この部屋に来る度にそんなことを思っていたなんて。
「でも変なのいっぱいあるもん! 変なんだもん!」
そんなに? そんなに変? 高らかに主張するほど? マジで?
そもそも私、なんでこんなボロクソ言われてるんだろ……。
涙でそう。
メイド1「(あの子、あたしたちが思ってはいても言えなかったことを口にしたわよ!)」
メイド2「(見て!ソフィア様の顔を!やっぱり変だとお気づきになっていなかったのよ!)」